米国が台湾にF16を売却するだけで「中台軍事バランス」が変わる理由

上岡龍次
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米国は台湾にF-16戦闘機の最新型を輸出することを決めた。

F-16を66機台湾に供与することになるが、中国は反発している。中国共産党政権は米国に対抗措置を行うと威嚇しているので、今後米中関係がさらに悪化するのは確実だ。

第4世代戦闘機なのに

米国が台湾に供与するF-16は第4世代戦闘機に分類される。

これは中国人民解放軍空軍が開発・配備を進める第5世代戦闘機よりも性能が劣る。同じ第4世代戦闘機ではバランス型で、F-15戦闘機やSu-27戦闘機と比べればレベルが低い。

それでも中国共産党が台湾へのF-16供与に反発するのは、人民解放軍空軍のSu-27系列がそれよりも性能が劣るということを暗に示している。

数では多い

人民解放軍空軍の作戦機は1,000機以上で、台湾空軍よりも300機ほど多い。つまり数では台湾空軍を圧倒している。しかし米国がF-16戦闘機を66機供与するというだけで強く反発している。

中国軍の作戦機数は多いが、実態としては古い機体をやりくりし、水増しして見せかけていると思われる。

台湾空軍が第5世代戦闘機を配備すると、中台の軍事バランスが崩れる。質的に、台湾空軍が新鋭機66機を配備するだけで台湾側が優位になるのだ。

空戦は決戦のみ

空戦と海戦には「決戦」しかない。それに対し陸戦は「持久戦」と「決戦」の組み合わせで戦う。これは人類の戦争史が導き出した経験則だ。

例えば、陸戦は燃料が尽きてもその場に留まることができる。地形を用いて隠れることも可能。水や食料を現地で調達し、武器弾薬を敵から鹵獲することも不可能ではない。

従って、陸戦では持久戦と決戦を組み合わせて戦うことができる。

それに対して、空戦と海戦は燃料が尽きたら終わりだ。ガス欠の時点で墜落するか海を漂流するので、基地から往復できる範囲のみが戦場となる。

潜水艦なら海に潜り隠れることが可能ではないか、と言われるかも知れない。しかし潜水艦は搭載した魚雷と食料の分しか戦えない。魚雷を撃ち尽くせば、戦場で新たに補給することはできない。

空戦は質の戦い

特に空戦は「量」より「質」の戦いになる。この質とは、戦闘機とパイロットの技量をワンセットにしたものだ。年間飛行訓練時間が120時間以上でなければ空中戦を行うことはできない。

ちなみに、米軍のパイロットは年間飛行訓練時間が150時間を超えており、その時点で他国よりも優位なのだ。

第二次世界大戦後の調査では、戦闘機パイロットが10回連続で出撃すると、11回目から「出撃不能」が増えることがわかった。連続11回出撃できたのは全体の20%で、残り80%は出撃不能となっている。

「出撃不能」の原因は戦死や負傷も含まれていたが、大半はストレスが原因だった。そしてストレスは休息で解消できることが判っている。この調査結果から、各国は機体数の4倍のパイロットを揃えるようになった。

各国は4人のパイロットを交代で出撃させることで、ストレスを軽減することが基本ルールになっている。従って、作戦機の多さよりもパイロットの人数の方が重要だということがわかる。

仮に50機の作戦機を運用する基地ならば、パイロットの数は200人になる。パイロットの育成には多額の費用が必要なので、作戦機が増えると軍隊の経済的負担は飛躍的に増大する。

人民解放軍の隠された姿

普通の国は、機体の数よりもパイロットの人数と練度を重視する。しかし人民解放軍は常に数の優位性を誇示する癖がある。もし作戦機が1,000機以上ならば、パイロットは4,000人以上必要な計算になるが、それでは資金的に無理が出てくるだろう。

人民解放軍が数を優先することで、パイロットの年間飛行時間は120時間以下となり、戦場で充分戦うための練度が得られていない。

もし中国がパイロットの練度を優先すれば、まともに戦える作戦機は台湾と同水準の700機まで減るだろう。そんな時に米国が台湾にF-16を66機も供与すれば、台湾空軍の質と量は人民解放軍空軍を超えることになる。

崩れるパワーバランス

台湾は共産中国の圧力によって国際社会から孤立させられており、外国から武器を購入することが難しい。

その結果、台湾軍はやむなく量より質を優先するようになっており、堅実に精強な軍隊を育ててきた。台湾軍は人民解放軍と何度か戦ったが、常に台湾防衛に成功している。これは「質による戦い」が行えたからこその成功だ。

このように、米国は中国共産党との対立を激化させつつ、台湾の軍事力を強化する道を選んだ。武力による「台湾解放」は遠のき、中国共産党は新たな戦略構築を強いられている。

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イカロス出版 (2018/12/28)

上岡龍次(うえおか・りゅうじ)/戦争学研究家、昭和46年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。

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