日本を含む世界各国で音楽活動を展開している韓国人アイドルグループのメンバーが、昭和20(1945)年8月に行われた日本への「原爆投下」をデザインに取り入れたファッションをまとっていたことが露見し、議論を呼んでいる。
日本国内における反応
原爆投下の写真に、愛国的なメッセージを添えたファッションを韓国人アイドルが身につけていた事実に対し、日本人が反感を抱くのは自然なことだ。このような感情的反応は右派に限定されたものではない。
先だって韓国の裁判所が「徴用工」への個人補償を認めるという異常な判決を下したこともあり、日本ではノンポリ層を含め「嫌韓」を通り越して「厭韓」ムードが広がっている。
要するに「もう、うんざり」ということだ。
一方で左派には韓国人アイドルグループを擁護する論調が目立つ。いわく、「原爆Tシャツは着た本人には責任がない」「今回のバッシングは韓国人への差別心によるものだ」などといった内容だ。
韓国国内の反応
韓国内ではメディアを含め「原爆ファッション」が日本で問題になったこと自体への反発が見られる。「そもそも戦争の加害者である日本人は文句を言うな」といった調子だ。
もともと、韓国では「原爆投下によって日本は敗戦し、韓国が独立できた」という歴史観に基づいて公教育が行われている。従って、今回問題になった「原爆ファッション」も韓国人の常識からして何が問題なのか理解できていないのだ。
「原爆ファッション」の何が問題か
そもそも「原爆投下」の写真をファッションに取り入れるという行為は日本人には理解し難い。これはイデオロギーの問題ではなく、より根源的な感覚だ。
日本では公教育において、徹底的な平和教育がなされる。中でも、広島と長崎における原爆投下の被害は、戦争の悲惨さを象徴するものとして、子供達に強烈な印象を与えてきた。
そのような教育を受けた日本人にとって、「原爆ファッション」は被爆者を冒涜する行為と映る。
しかし、ほぼ全ての日本人が原爆に対してそのような感情を抱いていることを、ほとんどの外国人は知らない。日本の平和教育では被爆者の焼け焦げた遺体や瓦礫だらけの街の写真を子供達に見せるが、海外ではそうではない。
その証拠に、外国人が広島や長崎の原爆資料館などを訪れると、強烈なショックを受ける。長崎の原爆資料館には佐世保に駐留する米兵がよく来るが、かつて日本に原爆を落とした米軍に属する彼らも、顔面蒼白になって帰る。
今回たまたま注目された「原爆ファッション問題」は、元来、原爆投下に関する日本人と外国人の認識の違いが背景にあり、さらに韓国における積年の「反日教育」がもたらした必然的「事件」であった。
韓国人アイドルグループは平均的な韓国の若者として、ごく自然に、悪意なく、反日的であり(それは日本でビジネスすることと矛盾せず)、愛国的に振る舞ってきたのだろう。
それがタイミング悪く「徴用工問題」で厭韓機運が盛り上がっているところに、過去の「証拠写真」として注目され、火に油を注ぐ結果となった。
「原爆投下」を肯定する論理
いま世界には昭和20年の広島・長崎への米軍による原爆投下を政治的に肯定する論理が存在する。それは、原爆投下によって日本の降伏が(原爆が投下されなかった場合に比べて)早まった、という「想定」に基づく。
つまり、原爆投下がなされず、ずるずると戦争が長引き、「本土決戦」が行われていれば、日米双方により甚大な被害がもたらされた筈であり、原爆投下は戦争全体で見ればむしろ被害を少なくした、という論理だ。
この論理は米国によって積極的に発信されてきたし、日本国民に対してもそのような宣伝が行われた。悪いのは無謀な戦争を引き起こした日本であり、原爆投下は自業自得、ということになる。
この論理は、日本における平和教育の充実を叫ぶ左派においても肯定されてきた。左派は原爆被害の悲惨さを強調する一方で、原爆投下の「犯人」である米軍を非難せず、戦前の日本政府と軍部を糾弾してきた。
日米戦争と、その帰結としての原爆投下について、占領軍たる米軍の宣伝と日本国内左派の主張は戦後一貫して一致していた。さらに日本の左派は、中国や韓国において、日本による「侵略戦争」を糾弾する国際宣伝活動を行ってきた。
そのような国際宣伝活動の結果、中国人は「南京大虐殺」があったと信じ、韓国人は「従軍慰安婦や徴用工」が強制連行されたと信じた。なんせ、張本人である日本人が言っているのだから、信じて当然だ。
原爆投下は戦争犯罪だった
このような国際宣伝が虚偽に基づくものであることが明らかになったのは最近のことだ。戦後日本で左派がメディアや教育界を支配する中で、一部の研究者が地道に歴史的事実を積み上げ、日本人の歴史観も徐々に改まった。
そして米軍による原爆投下も、終戦を早めるような効果はなく、一種の人体実験であり、戦後の新世界秩序を睨んだ米国による示威行動であり、いわば人類史上最悪の「戦争犯罪」に他ならないことを明らかにした。
しかし現時点で、どれほどの日本人が「原爆投下は米国による戦争犯罪である」と正しく認識できているであろうか。この点については、まだまだ心許ないと言わざるを得ない。
これからどうすべきか
原爆被害の実態について無知な韓国人の若者に対して、それを知っているわれわれ日本人が批判することは簡単だが、全く生産的ではない。韓国人に限らず、戦後日本は世界に対して「原爆投下の非人道性」を発信して来なかった。
より正確には、できなかったと言わねばならない。
米国の戦争資料館に日本側が被爆者の写真を展示しようと持ちかけても、退役軍人の反対によって頓挫するといったことも過去に起こっている。敗戦国である日本が、戦勝国の米国に公然と逆らうことはできなかった。
その結果、韓国人は「原爆投下によって自分たちは独立できた」という歪んだ歴史認識を信じ込み、「原爆ファッション」に身を包んで嬉々とする、はたから見ればおぞましい大人に育ってしまった。
だからと言って韓国人を非難するだけでは、日韓の溝を広める効果しかない。中国の拡張政策や、北朝鮮の核ミサイル問題を抱える緊迫した極東情勢において、日韓が離反することは、日韓いずれの国益にも反する。
これまでは、日韓友好のためには韓国側の主張を受け入れ、過去のありもしない国家犯罪について謝罪を繰り返すことが必要であると考えられてきた。しかし全てが逆効果だった。
これからは、歴史的事実について韓国人も納得できるように、日本側が積極的に情報発信し、不当な主張や要求に対しては断固たる態度で跳ね除けるべきだろう。
ときには外交的な制裁を課して痛みを伴う学習効果を与える必要もあるかも知れない。甘やかすことばかりが優しさではない。日韓に真の友情をもたらすためには、日本側に強い覚悟と自覚が必要だ。
本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。