衆院選でも話題の「教育無償化」について各党の公約を比較してみた

安部有樹
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今回衆院選の各党公約において「教育無償化」は、憲法改正の議論とも相俟って主要な論点の一つとなっている。

一口に教育の無償化と言っても、どの学齢について、どの範囲まで、といった条件設定が重要である。無償化に関する各党の論点を整理すると下表のようになる。

幼児教育については政党問わず無償化であるが、高等教育(大学)は完全無償化、条件付きに大別されるようだ。

政党無償化範囲備考
自民党3~5歳の幼稚園、保育園、
所得の低い家庭に限り高等教育も
 
希望の党保育園、幼稚園返済不要の奨学金増
公明党0~5歳の幼児教育、保育
私立高校授業料(就学支援金拡充)
希望するすべての大学生(無利子奨学金貸与)
 
共産党幼児教育、保育
高校授業料
 
立憲民主党高校(所得制限廃止) 
日本維新の会幼児教育、高校、大学(授業料が一定額を超える私立については支援額の上限設定) 
社民党保育料、幼稚園授業料(負担軽減図りつつ)
高校授業料(外国人学校含む)
大学、大学院(段階的に引き下げ)
給付型奨学金拡大

【出典:各党公約】

教育無償化の議論からは脱線するかもしれないが、教育とカネに関する議論でしばしば話題になることがある。それは、教育に対する公的支出の対GDP比が、日本はかなり低いというものだ。

これには少子化の影響も加味する必要があるだろう。また、ただむやみやたらと公的支出が多ければよいという訳でもなく、当然支出に見合った質の確保が求められ然るべきであろう。

<公財政教育支出対GDP比(2011年)>

公財政教育支出対GDP比(2011年)

ただ、この議論を行う際、一つ留意しなくてはならないことがある。それは、「少子化」である。確かに上図を見ると、日本の支出はOECD平均も下回り、その低さが際立つ格好になっている。

また、その裏返しであるが、義務教育である初等中等段階を除き、就学前、高等教育では私費負担の割合が高いという特徴もある。

<各学校段階別交付負担割合(2011年)>

各学校段階別交付負担割合(2011年)

もちろん、大学に行くことが人生の終着点ではない。直近のデータでは、高等教育機関への進学率は伸びていないというデータもある。

ここで、大学の中途退学者の状況にも少し触れて起きたい。

平成24年度のデータであるが、最も多いのは「経済的理由」である。この点、やはり学生の負担を減らすことは必要であるという理由づけにはなる。

ただ、気になることは、「学業不振」「転学」「就職」といった理由も決して少数ではないということだ。

<学生の中途退学者の状況(平成24年度)>

学生の中途退学者の状況(平成24年度)

    【出典:文科省HP】

安倍総理も衆議院解散前の記者会見で「人づくり革命」の一環として「どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を必ず実現する」と述べていた。

安倍総理の発言にもあるように、高等教育の無償化という環境が整った後、そこから大事なことは、大学で何を学ぶのかという、動機付けが非常に重要になってくる。上述のように、大学進学は人生のゴールではない。大学で身につけた教養や経験を、如何に実社会に還元していくか、そこに着眼点をおく必要がある。

誤解を恐れずに言えば、教育には一定の直接、間接的な費用が発生する。また、現在「労働力不足」にあえぐ日本の現状を考慮すると、むしろ大学へ進学せずに、労働人口を増加させる方が社会全体にとって、プラスに働く可能性もある。

とは言え、経済的側面からだけでは測れないのが教育である。この点、「教育投資」という観点から、その経済的効果(教育経済学)についての学問的な検証が期待される。

教育無償化については、大多数の国民も賛成であろう。後は財源の問題を如何に解決するかであるが、もう一歩踏み込んで、教育の中身と併せた議論が必要であると考える。

教育を考える際に重要な要素はいくつかあるが、中でも「教師」「教材」「カリキュラム」は特に重要度が高い。国際的な学力検査の結果から日本の学力低下を懸念する向きもある。それでも日本のいわゆる基礎学力の高さは世界的に見ても評価されているといってよい。 

無償化と同時に、それぞれの学齢に於ける教育の質を確保することの議論も不可欠だ。それはとりもなおさず、日本の将来を考えることと同義である。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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