一票の格差、最良の解決策は「議員定数増員」だ

政治
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令和3(西暦2021、皇暦2681)年の衆院選の「一票の格差」について、高裁レベルでは合憲判断と違憲判断に分かれている状況だ。

現在の政府は「一票の格差」が比較的小さくなる「アダムズ方式」という方法で選挙区の配分を決める予定である。

しかし、令和4(西暦2022、皇暦2682)年の『朝日新聞』朝刊によると、この方式では西暦2040年代には地方の議席が16減ってその分都市部の議席が増えるという「16増16減」が実現してしまう。

▽衆院定数、2040年「16増16減」 都市と地方の差拡大 朝日新聞社試算
www.asahi.com

地方の声を反映しない選挙制度で本当にいいのか。私はこの問題の根本は「議員定数削減」を執拗に唱え続けてきた政治家たちにあると考える。一票の格差を抑制しつつ地方の声を反映させるためには「議員定数増員」しか、方法は無いからだ。

「一票の格差」は何が問題なのか

「一票の格差」とは、簡単に言うと選挙区によって国民の「一票の重み」が変わってしまうという問題である。

例えば選挙区Aの有権者が75万人で選挙区Bの有権者が25万人の場合、投票率によって増減はあるものの、基本的に選挙区Aで当選しようとする政治家は選挙区Bの政治家の三倍の得票が必要とされる。これはさすがに不平等だろう、という話だ。

もっとも、例えば全ての小選挙区の人口を「誤差なく、ピッタリ50万人」に揃える、などということは不可能だ。過去の判例を見る限り、裁判所もそこまでは求めていない。

衆議院の場合、概ね一票の格差が2倍未満に収まらなければ最高裁に「違憲状態」と判断されることが多い。

なお、この一票の格差は国政だけでなく地方議会でも問題になっている。

例えば、東京都。

平成25(西暦2013、皇暦2673)年の都議選では共産党が民主党の議席を超えたことが話題となり、その後の共産党の影響力増大につながった。

だが、得票数では民主党が共産党を上回っていた。(その次の都議選では本当に民進党が共産党の半分未満の得票数になってしまっていたが)

令和3(西暦2021、皇暦2681)年の都議選では公明党と共産党の得票数はほぼ同じぐらいであったが、議席数では4議席の差があった。

選挙結果と民意の不一致が皆無になる選挙制度はあり得ないものの、平成25年の一票の格差は3倍を超えており、令和3年の一票の格差も2倍を超えていた。一票の格差を是正すれば結果が変わっていた可能性はある。

令和3年の都議選で一票の格差を是正した場合の議席数を計算したあるブロガーの記事(下記)によると、一票の格差を是正した場合公明党の議席は1議席減っており、共産党との議席数の差は3議席に縮小されている。

▽「1票の格差」2倍超の東京都議選、2増2減していたら第1党は都民ファーストだった!(どらったら!)
dorattara.hatenablog.com

もっとも、一票の格差を是正することが必ずしも「民意と一致」する訳ではない。

同記事によると令和3年の都議会選挙で「一票の格差」を是正していれば都民ファーストの会が第一党を死守していたようであるが、得票数で見ると自民党の方が都民ファーストの会よりも多いのであり、かえって民意と乖離している。

争点は「地方の声」をどう反映させるか

都議選では得票数自体は自民党の方が都民ファーストの会よりも多いのに、一票の格差を是正すると都民ファーストの会の方が議席を多く獲得してしまう―――この一見不可解な「逆転現象」だが、その理由は自民党と都民ファーストの会の支持基盤の違いにある。

自民党は伝統的に地方を支持基盤にしているが、都民ファーストの会は都市部の中間層が主な支持基盤だ。

もっとも近年の自民党は都市部の中間層の取り込みに躍起になっているが、東京都議会議員選挙においては都民ファーストの会に後れを取っているようである。

現行の定数を維持したまま一票の格差を是正すると、人口の多い都心部の議席数が多くなる一方、地方の議席数は減ることとなる。そうなると必然的に都民ファーストの会に有利になり、自民党には不利になる。

国政レベルでの一票の格差是正が進まない最大の理由も、一票の格差是正は地方の議席を減らすことになり、地方を支持基盤としている一部の自民党議員にとっては不利になることが挙げられる。

これは自民党の党利党略の問題であるとは、必ずしもいえない。

地方の選挙区の合併が進むことは、野党にとってはある意味自民党以上に不利である。なぜなら、多くの野党は地方において組織化が進んではいないからだ。

市町村議会において最も議席を獲得しているのが、共産党である。だが、多くの有権者は「自民党と共産党による二大政党制」など、望んではいないだろう。

しかし地方の選挙区の合併が進むと組織力の無い多くの「非自民・非共産」の野党は候補者の擁立すら困難となり、「自民党か、共産党か」の選択を迫られる。

参院選で立憲民主党が共産党候補者を野党統一候補にしたことが保守系野党支持層から批判を受けたこともあるが、そうした選挙区はそもそも民主党系よりも共産党の方が強い選挙区であった。

何よりも、地方を基盤にする議員がいなくなることは、都市部への人口集中を加速化しかねない。過疎・過密の問題を深刻化するだけだ。

議員定数を増やせばすべての問題は解決する

こうした問題を解決する簡単な方法がある。

それは「議員定数増員」だ。一票の格差を是正する方法は何も「地方の議席を減らす」だけではない。「地方の議席はそのままで都市の議席を増やす」という方法でも是正は可能である。

これだと自民党の地方を基盤にしている議員たちも反対する理由は無くなる。また、都市部を基盤にしている共産党も「定数削減は民意削減」と言っているぐらいだから反発しないだろう。

別に都市部の議席を減らすわけでもなく、むしろ増やすと言っているのであるから、都市部を基盤にしている議員も反対する必然性は無い。

が、こうした「どの政治家も反対しそうにない」定数増員という選択肢であるが、なぜか一部の政治家が強硬に反対している。

永田町には与野党を問わず「身を切る改革!」「議員定数削減!」を訴えている政治家たちがいるのだ。そして、そうした政治家の主張を支持してしまっている国民が少なからずいるのも事実だ。

しかし、議会には多様な民意を反映することが求められている。「政治家が自分たちの声を反映してくれない」と嘆いている国民が多い状況で、これ以上議員定数を減らしてどうするのか。

議員定数は増やすべきである。これにより地方の声の反映と一票の格差の是正とが両立するのであるから、反対すべき理由などない。

日野智貴

(ひの・ともき)平成9年(西暦1997年)兵庫県生まれ。京都地蔵文化研究所研究員。日本SRGM連盟代表、日本アニマルライツ連盟理事。専門は歴史学。宝蔵神社(京都府宇治市)やインドラ寺(インド共和国マハラシュトラ州ナグプール市)で修行した経験から宗教に関心を持つ。著書に『「古事記」「日本書紀」千三百年の孤独――消えた古代王朝』(共著・明石書店、2020年)、『菜食実践は「天皇国・日本」への道』(アマゾンPOD、2019年)がある。

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