なぜ保守派は「人権」という言葉を嫌うのか

人権
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令和3年3月2日、インターネット番組「未来解説」(ランダムヨーコch)において、人気ユーチューバーのランダムヨーコ氏は「日本の保守派は日本人の素晴らしさを強調するが、人権については左派がよく使う言葉だからと、(人権問題について)声を挙げない」と指摘した。

番組で話題になっていたのはチベット、ウイグル、南モンゴル、香港など、中国共産党政権に抑圧されている人権侵害問題。これらの問題について「保守派は安全保障の問題としては論じるが、人権問題としては言わない」との見方を示した。

さらに、「誇りある日本人像を守りたいなら、保守派も人権問題に取り組まなければならない。そこがいま欠如している。左派も日頃人権を唱えながら、国際基準とあまりにもかけ離れている。媚中でしかない状態も自浄しなければならない」と訴えた。

戦前の右派は人権問題に取り組んでいた

ランダムヨーコ氏の問題提起に対し、「選報日本」編集主幹の本山貴春は「戦前の右派は積極的に人権問題に取り組んでいた」と述べ、足尾銅山鉱毒事件(※)の問題を訴えていた田中正造元衆議院議員らの運動を、右派メディアや右派言論人が支援していたことを指摘。

※【足尾銅山鉱毒事件】明治初期から栃木と群馬の渡良瀬川周辺で起きた、日本初の公害事件。当時の足尾銅山は日本最大の鉱山で、排出される排煙や鉱毒のため酸性雨が発生し、山林が荒廃、台風による洪水被害も生んだ。下流の村落は廃村となり、千人あまりが鉱毒により死亡したと推計されている。当時の右派新聞「日本」は最も早く現地で取材するなど、田中正造を側面支援した。

国際人権活動家の石井英俊氏は「(戦前の代表的右派団体)玄洋社の社則には『人民の権利を固守すべし』とあった」(※)と補足した。

※【玄洋社】福岡を拠点とする政治結社で、自由民権運動に取り組んだ後、大アジア主義運動の中心となった。中国、朝鮮、インドなどアジア各国の独立運動家を支援した。政府の官僚専制主義に反対し、その影響力は政界にも及んだ。社則に「皇室を敬戴すべし」「本国を愛重すべし」「人民の権利を固守すべし」とある。敗戦後、「超国家主義団体」としてGHQに解散させられた。

明治以来の右派は「不平士族の反乱」に敗れた人々の流れを汲み、「自由民権運動」を興した。自由民権運動の中では西洋から輸入された「天賦人権思想」を重視し、普通選挙の実現や人権擁護に取り組んできた事実がある。

なぜ戦後保守は「人権」を嫌うのか

戦前の右派団体の多くは占領期間中の弾圧により、その多くが廃絶させられている。人脈としても戦後保守団体との繋がりは薄い。

1970年代以降に勃興した主な保守運動団体は、「反左翼」の側面が強かった。当時すでに、国内の人権問題は左翼団体の独擅場になっており、保守派は反左翼の文脈の中で「人権」という言葉も敵視してしまったのである。

石井氏は、「(戦後保守における)憲法改正運動の中でも、『現憲法には国民の権利が多く、義務が少ない』ことを問題視するロジックが優勢だった。『権利』を強調することは恥ずべきとする論理が保守派の中ではあった」と慨嘆。

ランダムヨーコ氏は「たしかに『権利を言っちゃいけない』という空気は保守派の中である。それは普通に考えておかしい。言葉に過剰に反応することは本質とズレている」と強調。

生放送を見ていた視聴者からは、「未来解説」に対し「人権派右翼番組」という称号が贈られた。

(選報日本/編集部)

▽石井英俊氏の論考が月刊「正論」4月号に掲載されました。
特集・中国という禍「北京冬季五輪開催に反対する」

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