【竹島の日】自衛隊「竹島奪還」は可能か?

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2月22日は島根県が平成17年に県条例で定めた「竹島の日」である。これは明治38年2月22日に竹島が島根県に正式に編入(県知事告示)されたことに由来する。平成17年は編入から100周年だった。

韓国軍「自衛隊による竹島奪還」を想定

令和3年2月11日、韓国紙「東亜日報」は、「韓国軍が自衛隊による独島(竹島)奪還作戦に対処する内部文書を作成し、国会へ報告していた」と報じた。

同紙によると、韓国軍が想定した「自衛隊による竹島奪還作戦計画」は、「自衛隊出身の兵器研究者」三鷹聡氏による記事をベースにしているという。

「軍事研究」2012年12月号

調べたところ、日本の月刊誌「軍事研究」2012年12月号に三鷹聡氏の署名記事「2020年、自衛隊の竹島奪還作戦」の存在が確認できた。三鷹聡氏の本名は加藤聡氏であることがわかったが、「自衛隊出身」とは記載されていない(NPO法人防衛技術博物館を創る会HP)。

いずれにせよ、日本の自衛隊が「竹島奪還作戦」を公式に検討した事実は見当たらず、東亜日報のスクープ記事にも「バイデン政権が誕生して日米韓3国連携による中国牽制が必要な時期に、こんな文書を作成して問題ではないか」という論調だった。

当該記事(韓国語版)には「最新型装備の導入を推進している軍部が、その必要性を説明する文書に日本軍(自衛隊)の独島侵攻シナリオを含ませた」との記述も見られる。

近年、韓国は軍隊を動員した竹島とその近海での演習を繰り返し行なっている。しかし日本側では、架空戦記小説を除けば、竹島の不法占拠に対応する手段として「自衛隊による奪還」を主張する声は殆ど聞かれない。

一部に「日韓断交」を唱える人々がいるが、それすら現状の国際情勢からして(中国を牽制する上で)現実的ではなく、国会やマスメディアで大真面目に議論されたことはない。

「竹島奪還作戦シミュレーション」は、兵器や人員の運用として議論することはあり得ても、政治的な議論の遡上には挙がっていないのである。

竹島不法占拠の経緯

平成24年に自民党は政権公約の中で「政府主催の『竹島の日』記念式典を開催する」としていたが、翌年の参院選公約では日韓関係に「配慮」して撤回され、いまだに実現していない。

韓国による竹島不法占拠のきっかけは、昭和21年の占領期間中に出された「マッカーサー・ライン(連合国総司令部覚書)」に遡る。

同文書の中で占領軍は、「日本が政治上・行政上の権力を行使しうる地域に『含まない』地域として鬱陵島や済州島、伊豆諸島、小笠原群島等のほか、竹島も列挙」(日本外務省HP)した。

しかしマッカーサー・ラインは日本の国境を確定するものではなく、昭和27年4月の主権回復(サンフランシスコ平和条約)とともに失効する予定となっていた。

しかし韓国はマッカーサー・ラインの「維持」を米国に要求し、これが拒否されると同年1月に「李承晩ライン」と呼ばれる大統領令を出し、竹島領有を宣言した。そして翌28年4月に韓国民兵組織「独島義勇守備隊」が初めて竹島を不法占拠するに至るのである(同民兵組織の実態は明らかではなく、韓国内でも議論がある)。

しかし当初、韓国側も竹島に「常駐」していたわけではなかった。少なくとも昭和28年6月、昭和29年4月と11月には日本の海上保安庁が竹島へ巡視船を派遣し、「交戦状態」が発生している。

「李承晩ライン」宣言後、韓国側は日本の漁船328隻を拿捕、3,929人を抑留、日本人死傷者は44名に上った。攻撃を受けた海上保安庁巡視船は16隻とされる。

昭和40年の日韓基本条約締結によって李承晩ラインは廃止されたものの、竹島の領有権については「棚上げ」されることになった。昭和41年に改定された日韓漁業協定において竹島周辺海域は「暫定水域」として日韓共同で利用することになったが、実際には今日まで韓国漁民が漁場を独占している。

実効支配地域の変動

昭和20年8月8日、ソ連は大日本帝国に宣戦布告し、同年9月5日までに満洲、北支、北朝鮮、南樺太、千島列島で日ソ両軍の戦闘が発生した。その影響は、現在もロシアに不法占拠された「北方領土問題」として残っている。

しかし韓国(大韓民国)は日本に宣戦布告したことはなく、むしろ朝鮮戦争において日本側の支援を受ける立場にあった。

日本は韓国軍の兵站基地としての役割を担っており、海上保安庁は国連軍の要請により「特別掃海隊」を派遣するなど、事実上の軍事作戦に従事していたのである。(当時、掃海隊派遣は日韓双方で秘匿された)

つまり、韓国は事実上の軍事同盟関係にある日本の領土へ侵攻し、現在へ至るも占領し続けているのである。

日本側の海上防衛組織としては、昭和27年4月に海上保安庁内に帝国海軍出身者らによる「海上警備隊」が設置され、同年8月に海上保安庁から独立、昭和29年7月に海上自衛隊に再編された。

まさに韓国による竹島侵略は、戦後日本が防衛組織を再構築する狭間を狙って決行されたことがわかる。しかも当初は民兵組織(但し武器は韓国警察が供与)を利用するなど、近年にも世界各地で見られる手法だ。

竹島を奪還する方法

現在竹島には韓国の武装警察が常駐するなど、「実効支配」を強化している。日本側は国際司法機関への提訴を含め、外交交渉による領土問題解決を目指しているが、当面は国内外に領有権の主張を続ける他ない。

いま優先的に考えるべきは、竹島を奪われた轍を踏まないようにすることだろう。中国による尖閣諸島への侵攻は、民間人(漁民)を装った武装要員によって始められる可能性が高い。

竹島同様、尖閣諸島でも日本側は海上保安庁が前面に立っている。竹島では一度は海上保安庁が占領者を排除したものの、保安官を常駐させなかったために、なし崩し的に占拠されてしまった。

すなわち、公務員常駐を尖閣諸島で行わないということは、「竹島失地」に学んでいないことを意味する。

他方、北方領土については平成3年のソ連崩壊が、これらを奪還する唯一最大の好機だったが、そのような議論が日本国内でなされることはなかった。

竹島についても奪還する好機は、朝鮮半島やその周辺で紛争が起こるときしかないだろう。しかしそのような好機を想定し備えていなければ、北方領土と同じように、失地回復は未来永劫不可能になる。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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