丸山議員への「魔女狩り」でほくそ笑む ロシアによる侵略の歴史とは

国際
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令和元年5月10日(日本時間)、河野太郎外相はモスクワにおいてロシア連邦のラブロフ外相と会談した。

会談の成果について河野外相は会見で「共同経済活動に関する作業部会の日程で一致」「元島民の方々のための人道的措置についても引き続き着実に取り組みを進めていくことを確認」(外務省公式サイト)などと述べている。あくまで持続的交渉の一環であり、今回の会談で特段の成果はなかった。

北方領土返還運動に取り組む島民に対して「戦争で取り返すのは?」などと質問したことで日本維新の会を除名された丸山穂高衆院議員は、北方領土訪問後(5月13日)に次のようにツイッターへ投稿している。

北方領土という戦争で取られたものをどのように取り返すのかというのは本当に一筋縄ではいかないと改めて痛感。実際に元島民の方や現地の方など様々な話を聞き、島の開発が進んで生活が根付いているのを見た。先日の外相会談含めて日本にとって厳しい立場が続く中だが粘り強く交渉を

この中の「先日の外相会談」が5月10日に行われた河野ラブロフ会談を示すことは間違いないだろう。

ロシア「日本は敗戦の結果を認めよ」

この外相会談に先立つ5月8日、ロシア外務省は以下の声明を発表していた。声明の最終段落のみ邦訳して引用する。(原文ロシア語)

閣僚会談の主なトピックは、ロシアと日本の間の平和条約の問題だ。これまでに開催された2回の閣僚ラウンドおよび副大臣レベルでの専門的な協議の結果に基づいて、当事者の立場を考慮に入れた深い意見交換が予定されている。我々は、この問題に関するいかなる協定も、両国の利益を完全に満たし、かつ各々の国民によって支持されるべきだろう。この道を前進させるための主な条件は、クリル諸島南部全域(北方領土のこと=編注)にわたるロシア連邦の正当な主権を含む、第二次世界大戦の結果を日本が完全に承認することである。

まさにこの既定路線の通りに、ラブロフ外相は河野外相に対し主張したとマスメディアが報じている。但し、実際の議事録は公開されていない。

ロシア側の強硬姿勢に対し河野外相は「日露の立場が異なる部分については、これまでの外相会談を含め、明確に日本の主張を伝えてきており、厳しいやり取りになることもあったものの、両外相の信頼関係の下で率直な議論が行われ」たと会見で述べた。(外務省公式サイト)

成果ゼロの安倍政権外交政策

安倍政権は特に外交に力を入れていると言われており、夏の参院選を前にして日露関係で外交的成果を得ることは日本側にとって悲願だった。しかし、わざわざ外務大臣がモスクワを訪問したにも関わらず、事務レベル協議を越える成果は得られなかった。

丸山穂高議員の非公式な発言は、まさにこの会談が行われている日付になされており、丸山議員が会談結果を把握していたか否かは不明であるものの、事前にロシア側の強硬姿勢を承知した上での島民に対する問題提起だったのではないだろうか。

5月14日、菅官房長官は定例会見において記者からの質問に対し、「詳細は承知していないが、報道されていることが事実であれば、まことに遺憾。いずれにせよ外交交渉によって北方領土の返還を目指していくという政府の方針に変わりはない」(政府インターネットTV)と述べた。

さらにロシア上院議員が丸山発言を批判したことについて「丸山発言が事実であるとすれば政府の立場とは全く異なるものであり、日露交渉に影響があるとは考えていない。いずれにせよ政府としては交渉を通じて、北方領土問題を解決し平和条約を締結する、その方針に何ら変わりはない」「一議員の発言であるから、(ロシア側に)政府として説明する考えはない」と回答している。(同上)

ロシア「日米安保破棄なら、2島譲渡も」

北方領土問題の発端は、8月15日の玉音放送による日本全軍停戦後に旧ソ連が一方的に侵略戦争を行ったことであり、現在のロシアはこれを正当化し、「第二次世界大戦によって獲得した領土」として自国民および国際社会に対し宣伝を続けている。

そして一貫しているロシアの対日外交方針は、「日露平和条約が締結できれば、2島(歯舞群島・色丹島)を日本へ段階的に譲渡(返還ではない)しても良いが、それには日米安保条約の破棄が前提となる」というものだ。

ロシア帝国、侵略戦争のDNA

ロシア帝政時代以来、ロシアの領土的野心に際限はない。もともとモスクワの小国に過ぎなかったロシアは、強国ひしめく欧州ではなく、未開の地であったシベリアをひたすら東方へ侵略を続け、当時の清朝(満州人)と戦い、敵わないとみるや進路を変えてユーラシア大陸の東端を目指した。その先にあったのが日本列島である。

幕末、ロシアは軍事力を背景にして日本に開港を迫り、文久元(西暦1861)年には対馬の港に無断上陸して兵舎を建設し、住民から物品を強奪するなどしながら半年間も居座った。世にいう「ロシア軍艦対馬占領事件」である。

外交交渉においてロシア側は不法占拠した対馬芋崎港の永久租借を要求。徳川幕府はロシアの蛮行に対し強硬に抗議したが、ロシアは聞く耳を持たなかった。

武力を背景にしたイギリス外交

事態を変えたのはイギリスである。当時アジアへ覇権を広げていたイギリスは対馬がロシア領になることを恐れ、日本側に協力姿勢を見せる。さらに軍艦2隻を対馬へ派遣し、ロシア側を威圧。恐れをなしたロシア軍艦はすごすごと引き下がった。

しかしこの時、日露の間に立ったイギリスのオールコック公使は本国に対し「イギリスによる対馬占領」を提案していた。そもそも、先に対馬の租借を幕府に要求していたのはイギリス側で、ロシアの強硬策はこれに刺激されたものであった。

変わっていない地政学的関係

その後、弱腰外国を批判された徳川幕府は崩壊し、雄藩連合による明治新政府が設立される。新政府は引き続き対露関係に悩まされるものの、日英同盟を締結し、日露戦争に勝利。敗れたロシア側は、最終的に帝政崩壊に至る。

ロシアは革命によってソ連となり、さらには共産主義体制の自壊によってロシア連邦となるが、地政学的な日露関係は基本的に変わっていない。ユーラシア大陸の東端に不凍港を求めるロシア帝国のDNAは現在も息づいている。

千島列島と北方領土は、ロシアにとって太平洋への出口として軍事上極めて重要な地域であり、経済的にも石油、天然ガス、レアメタルなどの地下資源があり、世界有数の漁場を確保する意味で絶対に手放せない。

このような歴史的、地政学的背景を無視して、「戦争という言葉を使った丸山穂高議員は許せない」という日本国内の大合唱を喜ぶのは誰か。それは潜在的敵国であるロシアと、日本に領土的野心を抱く中国、韓国、そして日本人を拉致した北朝鮮であろう。

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『日本独立論: われらはいかにして戦うべきか? 』(独立社デジタル選書)
主な内容:なぜ私はネット選挙を解禁したのか/日本核武装論とパブリックリレーション/北朝鮮による拉致は侵略戦争である/国と地方の権力構造/互助共同体仮説 流血なき内戦を戦え/日本政治のポジショニングマップ/三島由紀夫は何と戦ったのか

本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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