国を支える途上国の出稼ぎ労働者たちと、迷える日本の労働者の違いとは

我々は何のために働くのだろうか。この根源的な事象について、改めて考えてみたい。

公益財団法人日本生産性本部が昭和44年以来実施している新入社員の意識に対する調査がある。これによると、平成29年度新入社員の働く目的は「人並みに生活し、楽しい生活がしたい」というものであった(対象:1,882人)。割合としては42.6%であり、過去最高であった昨年度の41.7%を更新した。

下表は、やはり同本部による「働く目的」に関する意識の変化だ。平成10年前後を境に、「楽しい生活をしたい」と「自分の能力をためす」が逆転していることが分かる。

 【出典:日本生産性本部 平成29年度新入社員「働くことの意識」調査結果】

ここで、海外の労働市場という別の角度から、働くことについて考えてみたい。本稿ではフィリピンの事例を取り上げることにする。

フィリピンは「国策」として、多くの海外出稼ぎ労働者(OFW、Overseas Filipino Workers)を世界中の国や地域に送り出している。

<海外雇用庁による地域別出稼ぎ労働者配置比較>

地域 2016年(人) 2015年(人)
中東 1,058,514 913,958
アジア 488,615 399,361
日本 21,363 14,161
ヨーロッパ 24,419 29,029
北・南米 16,315 17,234
アフリカ 15,759 18,226
信託統治地域 5,748 4,777
オセアニア 18,488 18,850
合計 2,112,331 1,844,406

【出典:フィリピン海外雇用庁ホームページ】

日本も例外ではない。法務省のデータによると、平成30年3月末時点で、フィリピン人の中長期在留者は260,506人であり、中国、韓国、ベトナムに次ぐ数である。

フィリピンが有数の出稼ぎ労働者送り出し国として知られる所以は、自国経済に与える数字的影響である。

フィリピン海外雇用庁によると、OFWによる海外からの送金額の推移は下表のとおりである。2016年のGDPは3,117億ドル(IMF)であり、実にフィリピンのGDP約1%に当たる金額を、彼らの送金が支えているということになる。

<OFWの送金額>

地域 2017年
(百万ドル)
2016年
(百万ドル)
総額に占める割合(%)
中東 7,810 7,552 27.8
アジア 5,273 4,913 18.8
日本 1,468 1,362 5.2
ヨーロッパ 3,857 3,801 13.7
北・南米 1,0298 9,732 36.7
アフリカ 115 96 0.4
オセアニア 706 802 2.5
総額 28,059 26,899

※「総額に占める割合」は2017年の割合
※信託統治地域の数値は未公表
【出典:フィリピン海外雇用庁ホームページ】

日本の割合について見ると、2017年の総額に占める割合は5.2%と決して、目立つ訳ではない。しかし、アジアの合計で見ると、シンガポールの6.3%に次いで2番目に多い割合である。

では、海外へ出稼ぎに行くのはどのような層の人々が海外へ出稼ぎに行っているのだろうか。

国内での出稼ぎとは違い、国外へ仕事に行くには、それ相応の条件が求められる。例えば、海外出稼ぎの許可証は海外雇用庁が発給するものである。また出稼ぎ先の国の言語習得、さらに当然、海外渡航費など資金の工面も欠かせない。

ある識者の調査によると、OFWの登録は全国に及んでおり、中でも首都マニラの登録率が高いということだ。出稼ぎに出る前に従事していた仕事も、専門技術、工場技師など、専門性の高い職種が目立つ。

さらにOFWは高学歴である。高等教育(大学、大学院)、中等教育(高校)修了者で全体の約9割を占めるということだ。
 
ここまで書き進めて明らかなことは、フィリピンの人々にとって海外で「出稼ぎ」をすることは大きなチャンスということだ。それは我々日本人が「出稼ぎ」という言葉に対して持っているイメージとは性質を異にするものである。 
 
ただ、住み慣れた自国を捨て、異国の地で働くことは決して容易ではない。冒頭で記したように、現下の日本の若者が働くことに対して持つ意識を思うにつけ、私にはOFWの存在が半面教師として逞しく映る。
 
一方、誤解を恐れずに言えば、経済的な視点からすると、OFWを含めた海外出稼ぎ労働者は数値のうえで、日本の経済には大きく貢献できない。理由は、本稿で述べたように日本で稼いだおカネを自国へ送金するからである。

冒頭の調査では「経済的に豊かになる」という回答が上昇傾向にあることも示された。もちろん、経済的な豊かさの尺度は千差万別であり一概には言えない。

しかし、自らが経済的に豊かになれば、先ずは自分の生活を楽しむことができるようになる。さらに今一歩進んで、他に与える(これは物的側面だけに限られない)という精神的な余裕も生まれてくる。

一国の発展は、国民一人ひとりの努力の積み重ねの上に成り立つものだ。今こそ、日本が長きに亘り継承してきた利他の精神を、決して押しつけではなく、未来を担う次世代に伝えていくことが必要だ。

安部有樹(あべ・ゆうき)/昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。現在、外国人技能実習生を受け入れる管理団体に勤務するかたわら、社会的な問題解決のための提言を続けている。

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