数字で見る日中間の「好感度」 定住外国人の受け入れを阻む要因か

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世の中には、さまざまなデータ、統計が溢れている。中には、特定のバイアス(偏見)が掛かっていたり、正確性を欠いていたりするもの、また、部分的な結果が、あたかも全体の結果と見做されてしまったりすることもある。ただ、そのようなデータ、統計であっても、時に人々の行動に影響を及ぼすことがあることを、我々は知っている。

中でも、新聞等のメディアや各種機関が行う、ある特定の国に対する好感度調査は、その典型的なものではないだろうか。

先ず内閣府が実施している「外交に関する世論調査」というデータがある。日付として最も古い昭和50年7月から直近の平成28年11月まで、ほぼ毎年実施されている。調査結果の一つとして、各国に対する「親近感」を測る項目がある(平成24年以降は「日本と諸外国との関係」の中の一項目)。同調査の抽出結果に基づく、中国に関する直近5年間の集計結果は以下のとおりである。

<中国に関する親近感>

 親しみを感じる(%)親しみを感じない(%)
H28.1116.880.5
H28.614.883.2
H26.1014.883.1
H25.1018.180.7
H24.1018.080.6

【出典:内閣府「外交に関する世論調査」】

この調査の目的は、昭和50年7月実施から一貫して「一般国民の外交に対する認識等を把握し、今後の施策の参考とする」とされている。だが、調査の対象者は各年約1,800人であり、母集団も「全国の市区町村に居住する満20歳以上の日本国籍を有する者」という限られた中での結果である。果たしてこのデータを以て、中国外交に対する施策の参考として差し支えないのだろうか。

また言論NPOというNPO団体が、2005年から毎年、日本と中国共同で行っている調査がある。この共同世論調査の結果は次のとおりである。

<中国に対する印象>

 良い印象を持っている(%)良くない印象を持っている(%)
H288.091.6
H2710.688.8
H266.893.0
H259.692.8
H2415.684.3

【出典:言論NPO「第12回日中共同世論調査」】

パーセンテージの前後はあるものの、内閣府の調査結果同様、日本側の中国に対する印象の不均衡は一目瞭然である。同NPOは日本と中国共同で世論調査を行っているが、中国側の日本に対する印象も、ほぼ同様であることが分かる。 

<日本に対する印象>

 良い印象を持っている(%)良くない印象を持っている(%)
H2821.776.7
H2721.478.3
H2611.886.8
H255.290.1
H2431.864.5

【出典:言論NPO「第12回日中共同世論調査」】

ただ、上掲の内閣府と言論NPOの調査で特徴的な年がある。それはH24年から25年に掛けて、言論NPOが行った調査の「良い印象」が低下し、反面「良くない印象」が上昇していることである。一方、内閣府の数値は、ほとんど変化していない。

H24年は、当時の民主党政権(野田首相)が9月に尖閣諸島を国有化したことを受け、中国各地で反日デモが相次いだ年であった。内閣府の結果を好意的に取れば、両国間に波風が立ったにも関わらず、(良くも悪くも)日本の中国に対する親近感は不変であったという見方ができるのかもしれない。しかし、やはり事実を考えれば、言論NPOの結果の方が状況を適切に反映していたように思える。

昨今、「定住外国人」に関する議論が各所でなされる機会が増えてきた。もちろん、これに関する議論も、日本にとってどのような利点があるか、という視点がなければ進展しにくいものである。

「定住外国人」を受け入れる際の障壁は、例えば、治安や子女の教育なども考えられるが、ある識者が「(外国人に対する)日本人の意識」の重要性について指摘していた。

それ自体は不可視的なものである「意識」というものを、可視化したものが各種のデータ、統計そして世論調査であると言えよう。何も形がないところで声高に変化を訴えても、聞く側には届きにくい。課題を明確にしたうえで、可能な限り具体的な数値に基づき変化の必要性を訴える。さらには人々を行動に向かわせる、この過程が重要であると考える。

日本人は古来、さまざまな文化、技術を海外から吸収し、日本の国造りに生かしてきた。今、「定住外国人」について、我々の「意識」を含め、現実的な視点から真剣に議論する時期に来ている。

安部有樹(あべ・ゆうき)昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。学習塾、技能実習生受入団体を経て、現在は民間の人材育成会社に勤務。これまでの経験を活かし、「在日外国人との共生」や「若い世代の教育」について提言を続けている。

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