経済大国・中国からの技能実習生受け入れはもう見直すべき時期に来ている

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実のところ技能実習制度は、1970年代、日本から中国に対する鉄鋼の技術供与にまで遡ることができる。

当時の中国は、1950年代後半から60年代前半の「大躍進運動」の失敗、その後1960年代半ばに始まった文化大革命の動乱を経て、未だ「改革開放前夜」であった。

そのような中、1972年、「日中共同声明」により国交正常化が実現。その証として、中国から2頭のパンダが東京・上野動物園に贈られる一方(80年代以降は原則「貸与」)、日本からは製鉄技術が提供されることになった。

その際、中国から「研修生」を日本に呼び寄せ、製鉄技術の指導を行ったのだが、これが現在の技能実習制度の源流とされている。

「そもそも論」として、技能実習制度が受け入れの対象としている国々は「発展途上国」である。発展途上国は、1960年代「先進国」に相対する言葉として用いられるようになった。

人口一人当たりの所得水準が低く、第一次産業の比重が高い国々を指し、OECD(経済協力開発機構)の下部組織であるDAC(開発援助委員会)の援助対象となっている国々を指す。

JETROの資料によると、DACのODA対象国・地域(2011~13年)として、中国は「高中所得国(一人当たりGNIが3,976~12,275ドル)」に分類されており、未だ「援助対象国」の位置付けであるようだ。

一方、世界銀行の分類によると、世界の低・中所得国、具体的には一人当たりGNI(国民総所得)が2007年7月末時点で11,115ドル以下の国々が、発展途上国に該当するとされている。2013年のデータではあるが、中国のGNIは11,850ドルであり、こちらの基準に照らすと、「もはや発展途上国ではない」といえる。

ところが、GNIを一人当たりではなく、「国全体」として比較した場合、中国は6,628十億ドルとアメリカ(15,097十億ドル)に大きく水を空けられてはいるものの、日本(5,774十億ドル)を上回り文字通り、数字のうえでは「世界第二位」の経済大国となっている。

このように、国としては「世界第二位」の経済大国でありながら、援助対象国であり続けるという現状から、未だ貧富の差が激しい中国の内実を垣間見ることができる。

いずれにせよ、中国国内の平均的な給与水準の向上、そして、これは中国人実習生を受け入れている企業の彼・彼女たちに対する評価、さらに私が実際に中国人実習生と接する中で感じることであるが、中国からの実習生受入は今後、何らかの形で見直す必要が出てくるのではないかと考える。

上述のように、同制度が日本から中国への鉄工の技術供給がきっかけであったという経緯もあるが、制度開始当初は中国からの受け入れが圧倒的に多かった(下表参照)。

<国籍別実習生入国推移>

 2012年2013年2014年対前年伸率構成比
中国51,13645,87945,012△0.2%45.6%
ベトナム8,57711,34320,8481.8%21.1%
フィリピン4,9975,4737,7371.4%7.8%
合計85,92583,92998,695  

出典:「研修生」含む法務省資料に基づくJITCO作成資料(2015年度版)

現在でも、内訳として最も多いのは中国からの実習生であるが、近年は中国国内(ここでは都市と農村の区分には言及しない)の生活、給与水準の向上などの影響もあり、表のように同国からの受け入れ人数は年々減少傾向にある。

対照的に増加の一途をたどっているのがベトナムからの実習生である。中国と比較すると人数こそ相対的に少ないが、入国者の伸び率は一目瞭然であろう。ベトナムは、現在は未だ発展途上段階と言えるかもしれない。

しかし、中国の例を見ても分かるように、いずれ国内の経済が発展し、国民の生活水準も上がってくるだろう。実際、首都ハノイの月額賃金は2007年の79ドルから、2016年には192ドルまで上昇している(参考:2007年の年間平均レートは1ドル116.84円。2016年は107.84円)。

仮に賃金面だけにこだわるのであれば、わざわざ日本へ働きに来るメリットが低下することは十分予想される。

日本と中国は互いに租税条約を締結している(ちなみに条約締結時、1983年の外相は安倍総理のご尊父、安倍晋太郎氏であった)。これにより、中国からの技能実習生は両国において二重に課税されることなく、日本では所得税を支払わずに済む。

また収入も一定の範囲内であることが多い為、住民税も非課税である。このことにより中国人実習生は市町村臨時給付金の支給対象にもなっているのだ。

もちろん、実習生にとっては税金の支払いが発生し手取り給与が減ることは、決して歓迎されることではない。しかし上述の通り、中国は国際的に見て今や、日本を抜き「世界第二位」の経済大国という位置づけである。

同条約が締結された1983年から、既に30年以上経過している。もちろん都市と農村間における貧富の差は依然として存在するが、それでも中国経済も当時とは比較にならないほど発展している。

このような状況下、同条約の内容を含めて、中国からの実習生受け入れも、そろそろ見直す時期にきているのではないだろうか。

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