ウクライナが21世紀に示した国民国家の矜持

国際
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西暦2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵略戦争。この21世紀に起こっているとは信じがたいような情況が、日々伝えられている。

ウクライナからは、280万人以上といわれる人々が国外へ退避しつつある。今般のウクライナ難民は、欧州としては過去最大規模の難民となった。

国外へ避難しているウクライナ人のほとんどは女性と子供である。「総動員令」により、男性たちは銃をもって国内に留まっている。

ロシアのプーチン政権は、ウクライナのゼレンスキー大統領へ暗殺部隊を送りつつ、「ゼレンスキーが首都キエフを脱出した」などの偽情報を繰り返し流布している。

しかしゼレンスキー大統領は連日、自身の動画をインターネットに配信。キエフに留まり、徹底抗戦する姿勢を崩していない。ウクライナの頑強な抵抗は、プーチンの想定を超えていたようだ。

国民国家とは何か

私は、現在のウクライナほど「国民国家」のあるべき姿を示した事例を、少なくとも今世紀において他に知らない。

プーチン政権はこれまでも前時代的な侵略行為を繰り返してきたが、今回ほどあからさまな、主権国家に対する全面戦争に踏み切ったことに、世界が驚いている。

国民国家(Nation State)とはナポレオン時代のフランスに始まった概念で、国民に国防の義務(兵役)が課せられるのと同時に、参政権が認められる国家体制のことだ。

それまでの欧州では、戦争は貴族(あるいは傭兵)どうしが行うものであって、一般国民には他人事だった。フランス軍が強かったのはナポレオンが天才だったためだけではなく、国民が従軍したからだ。

それ以降、近代国家は基本的に国民国家になっていった。現在においても国民国家は地球上で最強の共同体である。(ちなみに独裁国家は民主制がないので、国民国家ではない)

ウクライナの主権は存続できるか

可能性としては、米国を含むNATO(北大西洋条約機構)がウクライナ自衛戦争に参戦し、核戦争を含む、対ロシア全面戦争に発展することもあり得なくはない。

残念ながら戦争とは、誰も望まなくても起こりうるものだ。

停戦交渉においてプーチン側は強気の姿勢を崩していない。ポイントは、講和後に主権国家としてのウクライナが存続できるか否か、だろう。

プーチンはゼレンスキー大統領を退陣(死亡も含む)させ、自分の傀儡をウクライナの首班に指名しようとするだろう。

すでにウクライナ東部に樹立したプーチン傀儡国家の、ウクライナからの「分離」を確定させることも望むだろうが、いずれのプランもウクライナの主権を蹂躙するものである。

ましてや、ウクライナ全土をロシア軍が占領し、植民地化するような企図を、「自由で公正な国際社会」が許してはならない。

日本の絶対平和主義者の中には「ウクライナはプーチンに降伏してでも戦争犠牲者を減らすべき」と考えるかも知れない。

しかしウクライナの抵抗は、一重に「主権国家ウクライナ」を防衛するものであり、これまでの尊い犠牲も、主権存続のためである。

日本も「ウクライナと共に」

ウクライナの戦況は、日本国内に対しても重大な影響を与えつつある。

経済的にロシアやウクライナからの資源供給が停止していることも大きいが、大国の元首が「あからさまな侵略戦争」を実行し、市民が殺されているという連日の報道は、人類が第二次大戦から大して変化していなかったという真実を示した。

これまでの日本政府や、(リベラル派の)宏池会政権では考えにくいことだが、日本からウクライナに防弾チョッキ(ベスト)を含む「防衛装備品」が供与されることになった。

また、日本政府も「ウクライナと共に」との見出しを掲げた文書を公表。日本からウクライナに対して行う支援や、ロシアに対する制裁の内容を列挙した。

首相官邸HPに各国語で掲載されている文書

ある防衛省関係者はNHKの取材に対し、「(ウクライナへの防衛装備品供与は)歴史的転換点になる」と話したという。まさにその通りだろう。

今後必要な防衛政策

ウクライナがプーチンから侵略戦争を仕掛けられた最大の原因は、プーチンが言うように「ウクライナがNATOに入ろうとした」からではなく、「ウクライナがNATOに入っていなかったから」である。

NATOとは、集団的自衛権より一段上の「集団安全保障」という枠組みだ。集団安全保障体制の一国が侵略を受ければ、他の加盟国が「自動的に参戦」する。

集団的自衛権の場合は、あくまで参戦する権利があるだけで、義務ではない。日本が侵略を受けたとしても、自動的に米国が反撃してくれるわけではない。(ウクライナの場合は集団的自衛権=同盟関係すらなかった)

もしプーチンが望む通りに事態が収束すれば、中国の習近平も同じようなことを企図するだろう。習近平ではなくとも、近い将来、中国の首脳が同じことをやりたいという誘惑に駆られることは間違いない。

それを防ぐには、東アジアにもNATOと同様の集団安全保障体制(アジア版NATO)が不可欠だ。現在、日本は米国の他にオセアニアや東南アジア諸国と防衛上の連携(自由インド太平洋戦略)を進めている。

核抑止力の保持についても、日本単独ではなくアジア版NATOとして共同管理するのであれば、国民の理解も得られるかも知れない。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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