日米首脳共同声明に頻出、《コミットする》とは?

国際
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西暦2021年4月16日、菅義偉首相とバイデン大統領による日米首脳共同声明が発表された。

外務省HPに掲載された共同声明文の仮訳を一読して気になったのが、「コミットメント」や「コミットする」というカタカナ表現だ。以下に該当箇所を一部引用する。

海が日米両国を隔てているが、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントが両国を結び付けている。

菅総理とバイデン大統領は、消え去ることのない日米同盟、普遍的価値及び共通の原則に基づく地域及びグローバルな秩序に対するルールに基づくアプローチ、さらには、これらの目標を共有する全ての人々との協力に改めてコミットする。日米両国は、新たな時代のためのこれらのコミットメントを誓う。

日米両国は、主権及び領土一体性を尊重するとともに、平和的な紛争解決及び威圧への反対にコミットしている。

共同宣言の本文(別添文書が2つある)だけで、カタカナの「コミットメント」「コミット」を合わせて13箇所もあった。

▽日米首脳共同声明(外務省)
www.mofa.go.jp

近年では日本のビジネスシーンでもよく聞かれる外来語だが、改めて辞書的な意味を確認してみよう。

コミット【commit】
委託する、引き渡す、ゆだねる、付する、(…に)身を任す、(審議のために)委員会に付託する、掛かり合いにさせる、(責任上)引き受ける、(…を)約束する、約束する

コミットメント【commitment】
委託、委任、引き渡し、投獄、拘留、委員会付託、言質、約束、公約、責任

(Weblio英和辞典)

英語の「コミット」は動詞、「コミットメント」は名詞として使うという違いがあるようだ。

ちなみに、共同声明の英文を自動翻訳にかけてみると以下のように変換された。

An ocean separates our countries, but commitments to universal values and common principles, including freedom, democracy, human rights, the rule of law, international law, multilateralism, and a free and fair economic order, unite us.
海は私たちの国を隔てていますが、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序など、普遍的な価値観と共通の原則への取り組みが私たちを結びつけています。

President Biden and Prime Minister Suga recommit themselves to an indelible Alliance, to a rules-based approach to regional and global order founded on universal values and common principles, and to cooperation with all those who share in these objectives. The United States and Japan will remake these commitments for a new era.
バイデン大統領と菅首相は、消えない同盟、普遍的な価値観と共通の原則に基づく地域的および世界的秩序への規則に基づくアプローチ、そしてこれらの目的を共有するすべての人々との協力に再びコミットします。 日米両国は、これらの約束を新しい時代に向けて作り直します。

We respect sovereignty and territorial integrity and are committed to peacefully resolving disputes and to opposing coercion.
私たちは主権と領土保全を尊重し、紛争を平和的に解決し、強制に反対することを約束します。

(Google翻訳)

翻訳の仕方で印象が変わる

外務省の仮訳と比べると、「コミットメントが両国を結び付けている」は、自動翻訳では「取り組みが私たちを結びつけている」になっている。

「全ての人々との協力に改めてコミットする」(外務省)は、「すべての人々との協力に再びコミットする」(自動翻訳)となっており、いずれもカタカナ語だ。

「新たな時代のためのこれらのコミットメントを誓う」(外務省)は、「これらの約束を新しい時代に向けて作り直します」(自動翻訳)となり、少し印象が違う。

「平和的な紛争解決及び威圧への反対にコミットしている」(外務省)は、「紛争を平和的に解決し、強制に反対することを約束する」(自動翻訳)となり、だいぶ印象が違う。

「commit」の語が頻出し、そのまま外来語として和訳に使用されるのは、今回の首脳会談が初めてではない。そもそも、「commit」や「commitment」は文脈によってニュアンスが変わる、翻訳の難しい単語なのだろう。

そして、当然AIによる自動翻訳よりも外務省による翻訳の方を信頼すべきだと思う。その前提を認めた上で、外務省の和訳が日本国民へ向けた文書であることを踏まえると、「外務省の意図」を想像せざるを得ない。

つまり外務省が今回の外交的成果を国内に対してどう説明したいのか、その思惑が、訳文に反映されない筈がない。

例えば「日米がコミットした」という表現を、正確な日本語で「日米が固く誓い合った」と訳したり、「菅首相はコミットする」を「菅首相が責任をもって請け負った」と訳したら、カタカナ語に比べてかなり印象が変わる。

多義的とはいえ、いずれの場合も「コミット」には、「責任を持って結果を約束する」「積極的にかかわる」といった《重み》があるのだが、カタカナで書くと曖昧かつ軽くなってしまう気がするのは私だけだろうか。

IT業界にいた経験もある私としてはカタカナ語をことさら排斥するものではないが、重要な外交文書や政治文書では、国民に正確な意味が伝わるように適切な日本語を使って欲しいと願っている。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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