泥沼化した「妊活」の恐怖 精子ドナーによる経歴詐称と報道セカンドレイプ事件

法律上「性犯罪にはならない」性行為の結果、「望まない出産」を強いられる――精子提供を巡って、そんな前代未聞の事件が起きている。

“加害者”は国内の大手生命保険会社に勤務する中国人男性(B氏)。学歴と国籍を偽って都内在住の日本人女性(A子さん)に対して精子提供を行った、とされる。

この事件について『週刊女性』(6月2日号)と『日刊SPA!』(6月7日配信)が既に報道しているが、両誌におけるB氏の釈明が虚偽である疑惑が浮上した。

筆者はB氏が両誌からの取材で否定している「学歴詐称」について、警察官が「B氏が学歴詐称を認めてA子さんに謝罪した」と証言した音声データを入手。また、B氏が養育費の支払いを約束した動画も入手した(現時点で養育費の支払いは行われていない)。

本記事では筆者が入手した物証と被害者・A子さんの証言から、前代未聞の事件のあらましとそれに関連して起きた「報道被害」の実態、そして「精子提供」を巡る法制度の不備を告発する。

ドナー不足が生んだ“SNS精子提供”の悲劇

まず、あまり知られていない精子提供の実態について説明させていただく。

精子提供は西暦19世紀後半にアメリカで始まり、20世紀には世界各国で行われるようになった。我が国では昭和23年(西暦1948年)に慶應義塾大学病院で初めて行われ、つい最近まで我が国における精子提供による人工授精(AID)の半分以上は慶大病院で行われていた。

だが、慶大病院は平成30年(西暦2018年)にAIDを中止する。理由は精子提供のドナー不足だ。

精子提供が始まって以来、一世紀以上の時間が過ぎている。我が国で精子提供が行われてから計算しても、70年以上の時が経っているのだ。しかし、怖ろしいことに未だに精子提供に関する法整備は不十分なままだ。

精子提供の場合であっても母親や子供には認知請求を行う権利がある。これは放棄することが出来ない権利だ。つまり、精子提供の際に「認知請求をしない」という契約書を交えていても、そのような契約は無効となる。

また、精子提供自体が「不貞行為」と見做される恐れもある。そのようなことから精子提供にはリスクを伴うことが認知されるにつれ、精子提供のドナーは減ってきていた。

そのため、精子提供を求める人々がSNSで提供者を探す事例が増えている。今回の事件の被害者であるA子さんもそのような一人であった。

既婚者で既に第一子のいたA子さんだが、第二子以降の子供を授かるための精子提供者を探していた。そのような中、SNS上で出会ったのがB氏である。

「倫理上の問題を抱えた妊娠をしたくなかった。」と語るA子さんはB氏が未婚で交際相手がいないことも確認した上で、彼から精子提供を受けた。しかし、それは「嘘」であった。

『週刊女性』の記事においてB氏は次のように述べている。

「妻や恋人はいるかと聞かれましたが、プライベートについて伝える必要はないので。ただ、妻はいます。」

つまり、B氏は妻がいるにもかかわらず「伝える必要はない」と勝手に判断し、「妻や恋人はいるか」との質問に虚偽の答えをしていたことになる。

こうした、重大な「倫理上の問題」を隠されたままA子さんは令和元年(西暦2019年)6月に妊娠が判明する。そして、B氏が隠していた問題はそれだけにとどまらなかった。

提供者は“学歴詐称”の中国人男性だった!?

B氏の勤める生命保険会社は国内の大手企業であり、A子さんの夫がかつて勤務していた外資系金融会社の最重要顧客でもあった。

A子さんによると彼は「京都大学卒」であると名乗り、名前は隠していたものの社員証も提示した。そして勤務先での話もしていたという。

A子さんはB氏からLINEで送られたという会社のパソコンの画面の写真を見せてくれた。確かに、当該生命保険会社の会社員しか知りえない情報が記されている。なお、この中にはその会社の会社員の実名や営業に関する情報も含まれており、B氏が外部の人間にこのような情報を漏洩したのはその生命保険会社の内規に違反する可能性が極めて高い。

こうしてA子さんはB氏の経歴を信じ、精子提供を受けた。当然、B氏が日本人であることも疑っていなかった。

しかし、B氏の言動に不信感を抱いたA子さんが彼の勤務先に確認をしたところ、衝撃の事実が発覚した。

B氏は中国籍の男性であり、出身大学は日本国内の国立大学ではあるものの、京都大学とは偏差値が10近く異なる地方の大学。そして前述の通り既婚者であることも判明した。

A子さんは三重の裏切りに遭ったことになる。これについてB氏は『週刊女性』の記事で次のように述べている。

「そもそも初めから匿名での精子提供という約束で、お互いの個人情報を詮索しない約束でした。」

互いに「詮索しない」と言っても、既婚者であることを隠していたのはB氏本人も認めているところ。重大なことを誤魔化していて「約束」と言われても開き直りにしか聞こえない人もいるだろう。

A子さんは次のように語る。

「精子提供にあたり、お互いの個人情報を詮索しないことの前提として《どの情報を開示するかはお互いの自由だが、開示する情報については全て真実にする》という、重大な交換条件がありました。」

また、B氏は当該記事で「学歴詐称」について次のように全面否定をした。

「学歴については《国立大学卒》とだけ伝えています」

だが、A子さんによると週刊誌が取材に来るまではB氏は学歴詐称について警察や弁護士に対して認めていたという。このことについて、筆者は警察官とA子さんとの音声データを入手した。

その音声データでは次のやり取りが残っている。

A子さん「そのBさんが、私に対して学歴と国籍と未婚と詐称」
M警察官「ええ」
A子さん「それをちゃんと認めて、ちゃんと謝って下さっていたよ、ちゃんと反省してくださっていたよ、ということをO様とM様(※二人とも警察官の名前)は見てたよ、ってことですよね」
M警察官「そうです!」

つまり、B氏は学歴詐称についても認めていたことになる。

また、最終的に今年4月、B氏が次のように述べた動画も筆者は入手した。

「A子さんに20才までの毎年の7月と12月に養育費として24万円を払うことを約束します。」

だが、彼は今に至るまで養育費を支払ってはいない。A子さんはB氏が養育費の支払いを約束したのは詐称を認めたからだ、と言う。

「詐称の罪を認めていなければ、精子提供者が養育費を支払うことはおかしく、むしろ私が訴えられるべき案件です。」

この詐称が発覚したのは、妊娠も後期になってから。中絶の対象期間ではない。結果的にA子さんはB氏による「3つの詐称」に苦しみながら出産することとなった。

週刊誌の報道によるセカンドレイプ被害

精子提供で主流な方法は直接の性交渉での精子提供と「シリンジ法」と呼ばれる精子を注射器で膣内に注入する方法の二種類だ。今回の事件で行われたのは前者の方法。このことがセカンドレイプ被害を産むこととなった。

『週刊女性』の記事には次のように記されている。

(A子さんの発言として)主人と容姿が似ていて、主人の卒業した大学と同じくらいの学歴で、奥さんや恋人がいないことなどが条件でした。B氏は主人と容姿の特徴が似通っていて、金融会社で働く京都大学卒という男性でした。

A子さんが選択したのは浮気、不倫という言葉がつきまとう婚外性行為で、ためらうことはなかったという。

これだけ聞くと「夫と養子の似ている男性と、躊躇なく性交渉に及んだ」と解釈されてしまう。「望まない出産」で傷ついているA子さんへのセカンドレイプを誘発しかねない記述だ。

だが、A子さんによるとこれらの報道は事実と異なる部分がある、と言う。

「主人に容姿が似ていて、という言葉は一度も言っていない。(記者から)しつこく聞かれ、その都度詳細かつ丁寧に否定したはず。」

また「ためらうことはなかった」と言うのも事実に反するのだという。A子さんは精子提供を受ける以前から酷い性交痛によって激しい痛みを感じており、産婦人科も受診していた。A子さんによると精子提供の途中からシリンジ法での精子提供に変更するよう提案したが、B氏はそれを断ったという。

さらに『週刊女性』の記事におけるB氏の次の発言にもA子さんは激しく憤る。

「彼女が妊娠したのは昨年の6月ですが、それ以降も何度も会いたいと言われ、同じホテルで会っていました。7月、8月、9月とずっと会って、そのたびに性交渉もしています。私は妊娠したところで役割を終えていたはずなので断っていたのですが、彼女にしつこく迫られていたので……」

既に述べていたようにA子さんには性交痛の持病がある。そのような中で本当に既に妊娠していたA子さんがB氏と関係を持ったのか。A子さんに確認したところ、A子さんは報道中におけるB氏の発言を明確に否定した。

「記事中に、私が会いたいと言い7月8月9月に会い性交渉をしたと記載がありますが、とんでもないです。」

そして、妊娠中の自分の状態を次のように説明した。

「私はつわりが重く、お風呂にも4日に一度くらいしか入れない体調、トイレ歩行も困難、寝たきり、点滴通い、切迫流産、などがあり、明らかにそのようなことは不可能です。」

しかし、『週刊女性』の記事ではB氏の発言を元に次のように記された。

当初は妊娠目的であっても、30代のA子さんが20代のB氏と「週に2、3回」のセックスを3か月近く行えば、そこには快楽も生まれ、情もわく。恋に落ちてしまうことだってある。それを冷静に制御できなかったのだろうか。

こうした報道を元に、あるニュースサイトでは数百件にも及ぶA子さんに対するセカンドレイプ的なコメントがなされた。

A子さんは思わぬ「報道被害」にこう述べる。

「B氏を怒らせないためにいやらしい言葉の応酬に応じていたLINE記録を、自分側のものを削除して記者に提出し意図的に勘違いさせたのではと思います」

A子さんは第二子と同じ遺伝子の第三子も欲していたこともあり、妊娠後もB氏と連絡を取り合っていた。そのことが仇になってしまったようだ。

なお、A子さんはLINEでやり取りしたメッセージが後から削除可能なことを知らなかったという。週刊誌報道の内容を知り、B氏が都合の良い部分だけを記者に見せているのではないか、ということに思い当たったということだ。

法の“想定外”の事態に行政・司法はどう対処するのか

今回の事件では性行為自体には同意があったため、B氏の行為は性犯罪にはならない。既婚者男性が妻の存在を隠したうえで女性を騙し関係を持つ時点で、社会通念上も許される行為ではないが、それを罰する法律は無いのである。

ならばどう解決するのか。A子さんとB氏は当初、弁護士を通じてB氏が養育費を払う内容での和解を進めていた。

また、A子さんは今後精子提供を巡って起きるであろう、似たような事件の発生を防止するためにも、今回の事件の真相を闇に葬る形になる和解は拒否したのだという。

「一旦破談で終了させた理由は、示談書には事件を口外しないという条項が入っていましたが、それに合意した場合、次の被害者を生まないようにするために社会に問う活動が出来なくなると思ったからです。」

この世界で精子提供が始まってから経った時間は、決して短くはない。何の法整備もしてこなかった政治サイドの責任も問われることである。

度重なるセカンドレイプ被害により、A子さんは我が子を育てることが困難な精神状態に追い込まれてしまった。だが、幸いにも東京都と区の好意的な対応のお蔭で、無事赤ちゃんを児童養護施設で養育することが出来るようになった。

一方、今回の事案は別の「事件」も誘発しているようだ。

A子さんはSNS上で一家が経営する会社の名前や資産額等のプライバシー情報が晒されたという。

私もA子さんのFacebookを見ていると、そこにA子さんの会社の名前を書いて「この会社に夫以外の子供を産んだことを報告するべき」という趣旨のコメントがあるのを見つけたことがある。迂闊にもスクショは取らなかったのでその細かい文面までは覚えていないのだが、Facebook運営に通報するとそのコメントは削除された。

Twitterでも同様の趣旨のツイートが存在している。

twitterのキャプチャ

ネット上でのセカンドレイプ被害も含め、これらは明確に「名誉毀損」事件だ。

だが、TwitterやFacebookと言ったSNS会社の本社は海外にある。仮に警察が捜査に乗り気になったとしても、証拠集めに時間がかかるのだ。被害者のプライバシーを晒した人物やセカンドレイプを行った人物の情報が開示されるまでは、時間がかかる。その間、被害者の労力も並大抵のものではない。

A子さんはB氏が中国に帰ってしまう可能性も危惧する。仮に警察がB氏の行為を刑事犯罪に該当するとして捜査したとしても、証拠集めの段階でB氏が海外に脱出すると起訴は出来ない。過去には一度不起訴になった中国人が帰国後に検察審査会によって「強制起訴」となったものの、被告人が海外にいるため公判を維持できないとして公訴棄却の判決が下ったこともある。

今回の事件は単なる詐欺事件ではない。『民法』や『刑事訴訟法』と言った法律上の欠陥からマスコミの在り方に国際問題まで巻き込んだ、まさに法の“想定外”の部分から一人の女性と赤ちゃんの人生に多大な傷を負わせた事件であり、この事件の解決はこの国の様々な問題につながるのだ。

日野智貴(ひの・ともき)平成9年(西暦1997年)兵庫県生まれ。京都地蔵文化研究所研究員。関西Aceコミュニティ代表。専門は歴史学。宝蔵神社(京都府宇治市)やインドラ寺(インド共和国マハラシュトラ州ナグプール市)で修行した経験から宗教に関心を持つ。著書に『「古事記」「日本書紀」千三百年の孤独――消えた古代王朝』(共著・明石書店、2020年)、『菜食実践は「天皇国・日本」への道』(アマゾンPOD、2019年)がある。



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