行橋市「テロ予告」で非難決議を出された小坪市議、共産市議らを提訴(前編)

政治
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令和2年2月13日、福岡地方裁判所小倉支部において名誉毀損を理由とする損害賠償請求の民事裁判が開始された。原告となったのは行橋市の小坪慎也市議。被告は同市の徳永克子市議ら同僚議員及び行橋市である。

ことの発端となったのは平成28年9月8日の「テロ予告事件」だった。

前日の7日、人気ブロガーとしても有名な小坪慎也市議が自身のブログに蓮舫参院議員の二重国籍疑惑について論評する記事を掲載。蓮舫氏は当時民進党代表選に出馬していた(その後、民進党代表に選出される)。

二重国籍問題は、場合によっては議員資格喪失に発展する可能性すらあった。小坪市議はその点を踏まえた上で、「野党第一党の党首」という立場の重要性を指摘し、「この問題は事前にクリアにされるべきであった」と述べている。

小坪市議は地方議員として多忙な政務をこなしつつ、ほぼ毎日、長文のブログ記事を執筆している。その多くは時事問題について地方議員として詳細に分析し、自身の考えを明らかにし、読者(ネットユーザー)に判断材料を提示するものだ。

一般的に、地方議員のWEB発信は地元での活動や交流を伝えるものが多く、小坪市議のように地域を超えた社会問題や国政の問題にまで日常的に言及する者は少数派だ。歴史論争などイデオロギー色が出やすい問題であっても果断に向き合い、旗幟を鮮明にするため、保守色の強い政治家と見られている。

しかし、少なくとも蓮舫議員の二重国籍問題を扱った当該記事が極端に偏っていたり、民族差別を助長したり、というようなことはなかった。保守系と見られるからこそ、小坪市議はバランス感覚を重視し、慎重に言葉を選んでいる。

二重国籍問題を巡っては、結果的にそのような立場に至った蓮舫氏を非難するというよりも、むしろ国内法の不備を指摘していた。その意識は「情けない。/蓮舫氏が、ではなく。/我が国の政治が、情けない。」という3行(当該記事)に凝縮されている。

小坪市議のブログに突如「テロ予告」

その記事に対し、突如として「テロを予告する」コメントが投稿されたのだ。

平成28年9月8日午前8時1分、以下のような内容のコメントが何者かによって投稿された。

《今週の土曜日に行橋市役所を爆破します/阻止したければソレマデニ辞意表明をブログで出して市会議員を辞めることだな/俺は本気だぞ 後で市役所にも電話するからな/覚悟しろよヘイト糞野郎/HAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!!!!!!》

この投稿者は「MGR星雲の騎士 M★A★S★A★T★O」という中二病(思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング)的なハンドルネームを名乗っている。

後に、犯人は滋賀県米原市在住の17歳の少年であったことが判明、逮捕に至った。

9月8日午後4時20分ごろ、犯人は行橋市役所に電話し、「行橋市役所を爆破する。小坪議員はブログ上で辞意表明せよ。さもなくば市役所は火の海に包まれるだろう」などとテロ予告を重ねる。

これを受けて行橋市は、福岡県警を動員して終日警戒体制に入らざるを得なくなった。警官と市職員らは深夜に至るまで庁舎内の不審物を捜索し、不審者を警戒。市民など来庁者の駐車場利用も制限された。小坪市議は「市民の安全のため」という理由で登庁を禁止され、家族も退避させた。

それまで毎日更新されていた小坪市議のブログは、9月8日以降、4日間にわたって更新を停止。この間、「市民の安全を考慮してブログの閉鎖も検討せざるを得なかった」(小坪市議)という。

この時点で犯人像は明らかになっておらず、動機も全く不明。単なる愉快犯なのか、実際に爆発物が設置されているのか、犯人の他は知りようがない。まさに行橋市役所全体が恐怖に陥れられたのだ。

被害者である小坪市議非難決議、謝罪要求

驚くべき事態は、テロ予告から4日後に発生した。なんと行橋市議会が被害者である小坪慎也市議を非難する決議を可決したのである。

9月12日、日本共産党所属の徳永克子議員が定例会において緊急動議として提案し、可決された決議文の全文を以下に紹介する。

小坪慎也議員に対する決議/9月8日に、行橋市役所に脅迫の電話があった。この事により、市民に対し、また、市当局や議会においても多大な迷惑を及ぼした。この「脅迫事件」は決して許されるべきものではない。/これは、小坪慎也議員が、平成28年4月に熊本地震が発生した際、差別的にとらえられるSNSでの意見発表を行った事を発端としている。/公人である市議会議員は、住民を代表する立場にあり、議会外の活動であっても良識ある言動が求められるのは当然である。/市民・国民に迷惑を及ぼすような意見の表明は、行橋市議会の信用が傷つけられたものといわざるを得ない。/行橋市議会は、小坪慎也議員が品位を汚すことの無いよう、公人としての立場をわきまえる事を求めると共に、謝罪及び必要な行動を自ら行うことを求めるものである。/以上、決議する。》

決議文のタイトルからして、テロ予告実行犯を批判するものではなく、被害者であり同僚議員である小坪市議を強く非難し、一方的に断罪するものであった。

同年11月1日、行橋市は行橋警察署に被害届を提出し、翌月の12月8日には17歳の少年が「職務強要と威力業務妨害の疑い」で書類送検されている。しかし現在(令和2年2月)に至るも、同決議は撤回されていない。

決議文の作成には、同市議会の坪根義光事務局長(市職員)が作成に関わり、諌山直議長が緊急動議を認めた。

当日の決議の模様は議事録及び動画で公開されている。以下に議事録から抜粋する。

【諫山直議長】 
おはようございます。開会前に執行部から発言を求められておりますので、これを許します。総務部長。

【灰田利明総務部長】
おはようございます。一般質問に先だちまして、一言御報告をさせていただきます。
9月8日に市庁舎に危害を加える、との脅迫があった件でありますが、行橋警察署と連携いたしまして、同日の夜から11日深夜0時まで職員を配置して対応いたしました。/この間、特に10日におきましては、駐車場の閉鎖等、市民の皆様には大変御迷惑をお掛けいたしましたが、幸いにも本件につきましては何事も生じませんでした。/今後も引き続き警察をはじめ各機関との連携を密にし、市民の安心安全に注力してまいる所存でございます。

【諫山直議長】
定足数に達していますので、これより本日の会議を開きます。/德永議員。

【德永克子議員(日本共産党)】 
小坪慎也議員に対する決議を緊急動議として提出したいと思います。

【諫山直議長】 
ただいま德永克子議員から決議提出の動議が提出されました。/動議の成立には、他に1名以上の賛成者が必要であります。/本動議について、賛成の方の起立を求めます。(起立あり)/所定の賛成者がありますので、動議は成立しました。

(中略)

【諫山直議長】 
動議の取り扱い、及び本日の議事日程については、休憩中に議会運営委員会で協議願っていますので、委員長から報告願います。議会運営委員会委員長。

【田中建一委員長】 
おはようございます。先刻、議会運営委員会を開き、動議の取り扱い、及び本日の議事日程について協議を行いましたので、その結果を御報告申し上げます。/先ほど德永克子議員ほか3名より決議1件が提出されました。これは行橋市議会会議規則第13条に規定する所定の要件を満たしており、よって、日程第1として決議の上程、質疑、討論、採決を行うことといたします。(中略)以上のとおり協議が整いましたので、議員各位の御賛同をよろしくお願いいたします。

【諫山直議長】
報告は終わりました。/お諮りいたします。/委員長報告のとおりとすることに、御異議ございませんか。(「異議なし」の声あり)/御異議ないものと認めます。よって、そのとおり決しました。/日程第1 決議の上程、質疑、討論、採決を行います。/今定例会に決議1件が提出されております。これを上程し、議題といたします。/決議第1号について、提出者から説明を願います。/德永克子議員。

【德永克子議員(日本共産党)】 
提出者は4名ですけれども、この4名の提出者を代表いたしまして、簡単に述べたいと思います。本日の開会前に、総務部長より脅迫電話と、それに対応する市の問題について御報告がございました。これの原因の発端になりました問題として、小坪議員に対する決議を提案するものです。/中身についてはこの案文でございますので、どうぞ皆様の御協力をよろしくお願いいたします。以上です。

【諫山直議長】
説明は終わりました。/説明に対して、御質疑はありませんか。(「なし」の声あり)
質疑を終わり、討論を行います。/反対の方。(「なし」の声あり)/賛成の方。(「なし」の声あり)/討論を終わり、これより採決を行います。/本案は、起立により採決いたします。
本案に賛成の方の起立を求めます。(起立)/起立多数であります。よって、決議第1号は可決されました。

上記の決議に賛成したのは徳永克子・二保茂則・鳥井田幸生・大池啓勝・西岡淳輔・大野慶裕・小原義和・藤木巧一・工藤政宏・瓦川由美・田中次子・西本国治議員ら12名。反対したのは城戸好光・田中建一・藤本廣美・澤田保夫・村岡賢保・井上倫太郎議員ら6名だった。

訴えられた徳永克子市議(日本共産党)

なお、小坪市議は当事者であるため決議前に退席を強いられた。動画を見る限り、被害者である小坪市議への一方的な非難決議は特に紛糾する様子もなく、恐ろしいほど淡々と進行し、可決されている。

さらに翌日9月12日、徳永克子議員は自身のブログにおいて決議文全文を紹介。同記事において以下のように提案意図を述べた。

《9月議会が開会された後、とんでもない事件が発生しました。市当局も議会も大変な状況になりました。議会では、この事件の原因となった小坪議員に対する決議が、12対6で可決されました。決議文は、議員何人もで考えたものです。残念ながら賛成しなかった議員の意見も取り入れました。》

徳永議員は上記のブログ記事を自身のツイッターで拡散した。

(後編に続く)

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本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。近著『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』(Amazon kindle)。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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