行橋市「テロ予告」で非難決議を出された小坪市議、共産市議らを提訴(後編)

政治
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令和2年2月、福岡地裁において小坪慎也市議が徳永克子市議(日本共産党)らを名誉毀損で訴えた民事裁判が開始された。発端となった「テロ予告」事件から時系列で解説する。

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小坪市議による「差別的発信」はあったのか?

ところで、決議文が「これ(テロ予告)は、小坪慎也議員が、平成28年4月に熊本地震が発生した際、差別的にとらえられるSNSでの意見発表を行った事を発端としている」と断定しているが、そのような事実はあったのか?

小坪市議による「熊本地震をめぐる差別的なSNS投稿」は確認されていないが、産経新聞のオピニオンサイト「iRONNA」に掲載された署名記事のことを指していると考えられている。

同記事の本文中にも「差別的」といえる表現は皆無だが、記事タイトルを巡って騒動が巻き起こっていた。そのタイトルとは次のものだった。

▽「朝鮮人が井戸に水」に大騒ぎするネトウヨとブサヨどもに言いたい!(iRONNA)
https://ironna.jp/article/3143

小坪市議によると、当該記事は別のタイトルを付与した上で寄稿されており、「iRONNA」編集部が執筆者の了解なく改変し公開したものだった。一般的にウェブメディアにおいて、このようなタイトルの改変は、アクセス数を増やすためによく行われる。

記事が執筆された背景として、熊本地震という最大震度7の大災害があり、その渦中に「朝鮮人が井戸に毒を入れたって本当ですか?」というデマ投稿があり、小坪市議はそのようなデマに踊らされるネット保守層を「大騒ぎする前に、他になすべきことはないのか」と叱咤していたのだ。

「iRONNA」に掲載された記事を巡って、西日本新聞は「行橋市議がネットで差別助長」(平成28年5月12日)などと題した記事を掲載し、「公人のヘイトスピーチを許さない会が福岡県弁護士会に人権救済を申し立てた」と報じた。

なお、小坪市議は西日本新聞の当該記事について「(自身に)取材もしないで事実と異なる記事を掲載した」と抗議し、福岡県弁護士会に対して自身の「人権救済申し立て」を5月20日に行っている。

前述の左派団体は平成28年9月6日に行橋市議会に対して「ネット発言の即時撤回」と「厳正な対処」を求める陳情書を提出。くだんの「テロ予告」は、実にその僅か2日後に行われたのであった。

テロ予告の目的は「別人のブログ更新を促す」ことだった

先の決議文において徳永克子市議らはテロ予告の原因を小坪市議のSNS(インターネット記事と錯誤か)に求めているが、実際の「動機」は何だったのか。

捜査にあたった行橋警察署はマスコミの取材に対し「少年(犯人)の好きなブログ開設者がこの市議に言及しており、少年は“開設者に対してブログの更新を促すためにやった。大ごとになるとは思わなかった”と話している」としている。

つまり、犯人が愛読しているブログが小坪市議と無関係に存在しており、その第三者によるブログ更新を促すことが「テロ予告」の目的であって、小坪市議の寄稿記事やSNS投稿等の内容は全く無関係だったというわけだ。

とんだ「とばっちり」である。

にも関わらず、徳永市議ら行橋市議会の12名は小坪市議について「(議員としての)品位を汚すことの無いよう、公人としての立場をわきまえる事を求めると共に、謝罪及び必要な行動を自ら行うことを求める」などと、テロ予告事件の4日後に決議したわけだ。

その後、犯人である少年の父親名義で翌年(平成29年)4月13日付けの手紙が小坪市議に送られ、「各被害について、できる限り弁償させていただきたい」との申し出があった。

小坪市議側は本人による再犯と模倣犯を戒める目的で賠償金を請求したが、少年側は「支払い能力がない」と拒絶し、結局謝罪もなされなかったという。少年について、大津家庭裁判所は平成29年8月に保護観察処分を下している。小坪市議側は令和元年12月に元少年の損害賠償を求め、民事訴訟を提訴するに至った。

共産党主導の「小坪市議非難決議」採択の鍵は公明党議員

さて問題は、行橋市議会である。

小坪慎也市議に対する非難決議を主導した徳永克子議員は共産党会派であり、そもそも多数派ではなかった。決議当時の議会構成は以下のようになっている。

「政友会」4名、「桜の会」3名、「朱白の会」4名、「市民の会」7名、「諸派(共産)」2名。このうち「桜の会」「市民の会」「諸派(共産)」が決議に賛同し、「政友会」「朱白の会」が反対している。(反対した会派のうち小坪市議を含む2名が退席)

行橋市議会

多くの地方議会は「首長派」と「反首長派」で対立する。

前者が国会における与党、後者が野党に相当する。地方議会は「二元代表制」といって、首長(都道府県知事や市町村長)と議員のいずれもが直接選挙で選ばれる。そのため、首長選挙と議会選挙で「ねじれ」が生じることがある。

もし首長が議会の過半数を味方につけることができなければ、多くの条例案や予算案が成立せず、自治体運営に行き詰まる。これが「ねじれ」である。逆にいうと、波乱なく運営されている地方自治体は、首長が議会の過半数を味方につけているというわけだ。

当時の行橋市議会は「政友会」「桜の会」「朱白の会」の合計11名が市長派で、「市民の会」「諸派(共産)」の合計9名が反市長派、という構図だった。しかし小坪市議非難決議に際しては「桜の会」3名が共産党に同調し、可決されてしまったのである。

「桜の会」に所属する議員のうち2名が、そもそも公明党に所属する議員だった。(会派と所属政党は必ずしもイコールではない)

小坪市議:非難決議の撤回を求めるも、梨の礫

平成29年6月12日、小坪市議は行橋市議会定例会において執行部に「テロに屈しない意思表示」を求めている。当該箇所を議事録から抜粋する。

【小坪慎也議員】
立法の場としては、私は、つまり議会側としては、この処理(決議)は誤りであったと思っております。私はその場で関係者ということで、発言する機会もございませんでしたから、この場で言っておきますが、私は行橋市議として、あれは間違っていたと考えております。国県地方の流れや三権分立の観点から考えても。ただ行政機関、執行部は考えは違いますので、毅然とした態度を示すことによってテロに屈しないと、そういう意思表示を示していただけるかどうか、執行部の答弁を求めます。

(中略)

【小坪慎也議員】
また私は自分の名誉というわけではないですが、落としどころとしては、議場等で、これは何とかすべきじゃないかな、公式のものをということで、内容証明を昨年の12月議会が終わる前に送っておりまして、これは議会向けでございますけど、返答は全て紙でということで送っておりますが、現状、返事もございませんので、処理を開始いたしたいと思います。極めて不誠実な対応かと思っております。

つまり、小坪市議としては議会に対して自身に対する非難決議の撤回を求め、それを議場で表明するのみならず、決議に賛成した議員らに対し「内容証明」を送付した、というわけだ。平成28年12月に送付された「内容証明」がいかなるものであったかは公表されていないが、令和元年12月4日に福岡地裁に提訴された民事訴訟から推測することができる。

『選報日本』編集部が入手した訴状によれば、小坪市議は行橋市と徳永市議ら「被告」に対して「220万円の損害賠償」「新聞への謝罪広告掲載」「市議会だよりへの謝罪広告掲載」などを求めている。

その理由として、過去の判例などを踏まえ「(決議は)爆破予告という違法不当な犯罪行為に加担して、原告の議員としての地位を喪失せしめることを目的としたものであるから、その目的が違法不当」であり、決議文の内容が「事実と異なる」ため名誉を毀損されたとしている。

平成29年9月30日、小坪市議は決議がいっこうに撤回されないことに抗議して会派(市長派・朱白の会)を離脱。これによって行橋市議会は市長派と反市長派が同数となり、一挙に不安定化した。この時の心境を小坪市議は「議会の矜持を示したかった」と述べている。

この小坪市議の思い切った行動は、市長派の公明議員に対する強烈な面当てとなった。その後、小坪市議は無所属議員として執行部の方針に是々非々で臨むこととなる。

テロに屈したままの行橋市議会、裁判の行方は?

平成28年9月12日の行橋市議会決議は「議会がテロに屈した」異常事態であり、事実上議会が「テロに加担した」と言える重大事件だった。その後一貫して小坪市議は徹底抗戦の姿勢を崩さず、決議賛成議員に対して謝罪と賠償を求め続けたが応じられなかった。

今後、裁判所が「テロの原因を小坪市議と断定した決議」による名誉毀損を認めるかが争点となる。まさに議会の責任と道義性が問われる問題だ。

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本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。近著『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』(Amazon kindle)。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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