単なる「長時間労働規制」では進まない「働き方改革」の実態とは

今国会(第196回国会)で「裁量労働制」に関する議論が紛糾を極めた。首相、厚生労働大臣の答弁の根拠となった労働時間のデータに不備があったことに端を発したものだ。結果、安倍晋三首相は、働き方改革関連法案から、同制度の適用拡大を削除すると表明するに至った。

そもそも、裁量労働制とは、どのような制度であるのか。これは、労働時間や仕事の進捗が労働者個人の「裁量」に委ねられ、実際の労働時間ではなく、仕事の成果で報酬を決めるという制度である。

では、「裁量性」のある業務とは何か。厚生労働省労働基準局監督課によると、「専門業務型裁量労働制」の説明において、「情報処理システムの分析又は設計の業務」「コピーライター」「弁護士」など、19業務に限定されている。

裁量労働制の議論を含めた一連の「働き方改革」は、「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ(首相官邸)」であり、安倍政権の最重要施策の一つである。

平成29年3月に公表された「働き方改革実行計画」にも記載があるが、日本の労働制度と働き方における主要課題の一つとして、長時間労働が指摘されている。

長時間労働が大々的に議論のされる潮目となったのは、平成27年12月に大手広告会社・電通の女性社員が過労自殺、労災認定されたことであろう。
 
将来を嘱望されていたであろう一つの尊い命が絶たれたことは非常に痛ましいことである。また、私も娘を持つ親として、残されたご家族の心痛は察するに余りある。

しかし私は敢えて、この一件が、現在に至る働き方、特に労働時間の議論に与えている影響について提起したい。
 
現実問題として、多くの中小・小規模事業者にとって、労働時間は企業存続の生命線と言っても過言ではない。納期など顧客の要望に応えるべく、時には休日返上で稼働させる必要もある。

そのような場合、労働時間の過度な規制は、顧客の意欲を削ぐことにもなりかねない。

勿論、長時間労働を肯定する訳ではない。生産性を考慮すれば本来、残業など行わず、所定時間内で業務を終わらせることに越したことはない。

過労死(※)など論外である。働き過ぎで死ぬという、凡そ海外の人々には受け入れ難い言葉が社会的に認知され出したのは1982年、3人の医師・研究者の共著で使用されたことがきっかけと言われる。

日本における自殺者の総数は24,025人(平成27年。警察庁データ)であり、近年減少傾向にあるが、未だ深刻な状況であることには変わりない。中でも勤務問題を原因の一つとするものは、2,159人(8.9%)とされている。

誤解を恐れずに言えば、自らの仕事に心血を注ぎ、時には寝食も忘れて、誰かのため、何かのために働くことは、決して否定されることではない。

いわば、「悪徳」とも言えるブラック企業が取り沙汰される昨今、そのような働き方はむしろ日本人が本来、大事にしてきた、働くという「美徳」であると言えよう。

本当のワークライフバランスとは、各自のしっかりとした「ワーク」、仕事の上に成り立つものだ。働くことができる方は精一杯働き、適正な対価を得て「ライフ」、生活を保つことが理想であると考える。

※過労死・・・過度な労働負担が誘因となって、高血圧や動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患、急性心不全などを発症し、永久的労働不能または死に至った状態(厚労省「産業医のための過重労働による健康障害防止マニュアル」より)

安部有樹(あべ・ゆうき)/昭和53年生まれ。福岡県宗像市出身。現在、外国人技能実習生を受け入れる管理団体に勤務するかたわら、社会的な問題解決のための提言を続けている。

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