警察が把握している北朝鮮拉致被害者は883人!隠された事件の全貌

安全保障
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北朝鮮による拉致事件とは

安倍政権が最重点課題に掲げる「北朝鮮拉致問題」。1970年から80年代にかけて、日本各地で北朝鮮工作員が日本の民間人を多数拉致誘拐した事件である。現在、日本政府が正式に「拉致被害者」として認定しているのは17名(12件)だ。

政府認定拉致事件

その中には、あの有名な横田めぐみさん(拉致当時13歳)や、北朝鮮が自ら明かすまで日本側が把握していなかった曽我ひとみさん(拉致当時19歳)も含まれている。

しかし実際には、遥かに多くの日本人が北朝鮮によって拉致されている。実は日本政府もそのことを把握しているが、なぜか「政府認定」には踏み切っていない。

拉致被害者の人数に政府内矛盾?

毎年警察庁が発行している「警察白書」という公文書がある。犯罪の傾向など、警察が把握している様々な情報を集約して公開しているものだ。この中に、北朝鮮による拉致事件を扱う項目もあり、「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案」として「883人」という人数が明記されている。

平成29年度版警察白書

警察が「拉致の可能性を排除できない」とする人数は、毎年の警察白書で変動している。私が拉致対策本部に出向している警察官僚に聞いたところ、警察としてはこの数字に自信を持っているということだった。非常に厳密に計上された人数なのだ。

多くの日本国民は、拉致被害者を17名と認識している。そのうち5名はすでに帰国しているので、日本が奪還しなければならない拉致被害者は12名だ。しかし実際には、日本の政府機関の一つである警察庁が「883名」という数字を公表している。

拉致対策本部と警察庁。同じ日本政府の機関でありながら、なぜこうも数字が違うのか。その理由は、警察白書の紙面を見ればわかる。「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案」の人数については本文に記載されておらず、なんと欄外の「脚注」として、極小の文字で記されているに過ぎないのだ。

北朝鮮拉致は事実上の侵略戦争

拉致被害者が17名ではなく、800名以上いるとすれば、国民の拉致問題に対する印象は全く異なったものになる。もちろん、たった一人であったとしても外国機関によって国民が拉致されたことは大問題だ。しかし世界的にみれば、国家間闘争の中でまま起きうることであり、そう珍しいこととは言えない。

しかし数百人から一千人規模ともなれば話が違う。実行者としては国策と言って良い規模であるし、被害国としても中央政府の責任問題になるだろう。自国民が続々と拉致されているのを知りながら、その国の政府が無為無策であることが露見すれば、間違いなく政府転覆という事態になる。それくらいの重大問題だ。

現在、日本政府が拉致被害者の帰国を求めて、北朝鮮政府と交渉している。もし北朝鮮側が交渉に応じて、何名かの「拉致被害者」を返還したとして、本当に拉致問題は解決したと言えるだろうか?

北朝鮮政府は、いわば拉致事件の「犯人」である。その犯人が「拉致したのはこの人たちだけです」と言ってきたとして、それを信じても良いのだろうか?

今のところ日本政府は、交渉以外の手段で拉致被害者を救出する計画を示していない。北朝鮮側がアクションしない限り、手も足も出ないのだ。もし、拉致事件の全貌を明らかにしたいとすれば、北朝鮮政府そのものを統制下に置く以外に調べようがない。

事件の実態を隠したい日本政府

日本政府は、国民が拉致事件の全貌を知ることで政府批判が巻き起こることを恐れているのではないだろうか。だから、警察発表の883人ではなく、政府認定17人の数字を強調する。拉致対策本部は、拉致事件の実態を過小に見せるためのプロパガンダ機関と言われてもおかしくはない。

警察庁が883人の数字を警察白書に載せているのも、このことを積極的に国民に広報し、注意を呼びかけるためではない。こんなに重大なことが、極小文字で欄外に記されていることからも意図は明らかだ。後々、「警察が仕事をしていなかった」という批判を避けるための官僚的布石に過ぎない。

因みに、政府認定以外の拉致の疑いについては民間団体の「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表)が調査している。調査会が更新している被害者リストは、警察が持っているリストと重なる部分があり、重ならない部分もある。それほど、拉致事件の実態はわからないのだ。

憲法が保障する人権とは

北朝鮮による拉致問題が「人権問題」なのか、「主権侵害問題」なのか、救う会の現場でも議論になることがある。救う会が「拉致は侵略だ」という標語を掲げようとすると、自治体がそれを妨害するという事件も過去に起こっている。どうも行政側には、拉致問題を人権問題として「矮小化したい」という意図が感じられる。

伏せ字にされた「侵略」

救う会「拉致は侵略だ」

人権問題といえば、部落差別や在日朝鮮差別などが連想される。もちろんこれらの人権問題も重大な問題だが、憲法が保障する「人権」の本質とは何だろうか?

日本国憲法 第十一条:国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

伝統的な人権思想に従えば、人権とは「自由に暮らす権利」である。とすれば、北朝鮮に拉致され、人生の大半を奪われている拉致被害者こそ最大の人権侵害被害者であり、彼らの人権を保障し、自由を回復する義務は日本政府にこそあるのだ。

つまり、拉致問題は北朝鮮政府が悪いのは当然として、その北朝鮮政府から国民を救出し、被害者の人権を回復するのは日本政府の責任ということになる。何と言っても拉致被害者の大半は日本国内から拉致されているのである。

憲法9条があるから救えない?

ところが日本政府はその責任を認めず、事もあろうに犯人と交渉して国民を取り返そうとしている。犯人を逮捕し、裁こうという意図もさらさらない。そして、人権保障という政府として最大の責務を果たさない言い訳として「憲法9条」を持ち出しているのだ。

日本国憲法 第九条:
一 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
二 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

安倍首相

平成27年、平和安全法制(安保法制)を巡る国会質疑の中で、中山恭子参院議員が「拉致被害者を自衛隊が救出できるように法整備すべきではないか」という趣旨の質問を行ったところ、安倍首相は次のように回答している。

「自衛隊の活動については、国際法上の観点や我が国憲法の観点から一定の制約があり、今回の法整備によっても自衛隊の活用には限界があることも御理解をいただきたいと思います。」(平成27年7月30日参議院特別委員会)

つまり、憲法9条(戦争放棄)と11条(人権保障)で矛盾を来しているということだ。日本国憲法は、「戦争してでも国民の人権を守らないといけない事態」を想定していない。日本が外国を侵略する戦争のみを想定して禁止し、日本が外国から侵略される、あるいは危害を被る事態を想定していない。

正しい憲法解釈とは

これは明らかに憲法の不備と言える。こういう場合はどうすべきなのか。憲法というのは本来「不文憲法(慣習法)」を含むので、憲法典(明文憲法)に不備があっても問題ないのだが、ややこしいので一般的な法律で考えてみよう。

法律も制定するには一定の手続きが必要なので、一般社会において法律が想定していない事態というのはまま起こりうる。また、運用によって法律を「解釈」しないといけないことも多い。法律にはいちいち細かいことまで書いてないからだ。その解釈を行うのは一義的には法律を運用する行政官であり、最終的には裁判所が判断することになる。

その「解釈」に際して重要なことは、法律の「立法目的」を確認することだ。そもそも何のためにその法律が作られたのかを考えれば、法律が想定していない事件が起きても、適切に判断できるというわけだ。

この考え方に基づいて憲法9条と11条の矛盾を解いてみよう。9条は日本を含む「国際社会の平和」の実現を目的としており、11条は日本国民の人権(自由)保障を目的としている。9条は日本が主体的に国際社会の平和を乱すことがないように置かれた規定であり、11条の人権保障を実現するための行動までは制約していないと解釈できる。

人権侵害を推進する護憲派

9条はいわば「消極的」規定であり、11条は「積極的」規定と言える。9条を字義通り「固守」することで11条の義務を放棄することは許されないのだ。

わが国の護憲派の中には、「拉致より憲法だ」と拉致被害者家族に発言した者も実在する。

▽社民系組織メンバーの「拉致より憲法」発言に家族会反発(産経新聞)
www.sankei.com/world/news/150804/wor1508040057-n1.html

護憲派はまさに憲法「教条」主義者であり、人権「侵害」推進派であるとすら言える。

そのような護憲派と、安倍首相の認識は大差ない。憲法9条は、拉致被害者を救出するために政府が行動しなくて良い免罪符ではない。たとえ実力行使してでも、日本政府は国民の人権を回復する義務があるのだ。

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本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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