昨年の新潟県長岡市議会9月定例会で市議2人の一般質問を議長が不許可にしていたことがわかった。昨年12月28日に毎日新聞が報じた。
筆者は、毎日新聞の報道を受けて、この前代未聞の言論封殺について独自に調査・取材をおこなった。
▽市議会で質問不許可 議長「刑事裁判記録利用は品位損なう」 長岡市官製談合、背景めぐり 新潟(毎日新聞)
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長岡市で官製談合事件が発生
一般質問の通告書を議長に提出したにもかかわらず質問不許可となったのは諏佐武史(すさ・たけふみ)議員と関貴志議員。一方、質問を不許可としたのは丸山広司議長である。
長岡市では平成31年に市の幹部職員、県議秘書、業者が逮捕される官製談合事件が発生。4人が官製談合防止法違反などで起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受け、刑が確定した。
諏佐議員と関議員は新潟地方検察庁に「議会で議論するため」という理由を示して、官製談合事件の刑事確定訴訟記録の閲覧を申請。一部の閲覧が認められた。
毎日新聞によると「(訴訟)記録には市職員らが価格漏えいの事業を説明した供述調書や、立件されなかったものも含め官製談合の疑いが指摘された75件の工事一覧が含まれていた」という。
両議員は令和2年6月定例会において訴訟記録をもとに官製談合事件についての質問をおこなった。その後の各派代表者会議では全会派から両議員の質問について抗議があった。議会関係者によると、長岡市議会では全会派が「市長与党」だという。
9月定例会においても両議員は、訴訟記録をもとにした一般質問の通告書(令和2年8月24日付け)を議長に提出した。筆者は、長岡市議会に情報公開請求をおこない、両議員の質問通告書と議長が発出した不許可通知書を入手した。
通告書が提出された翌日に丸山議長名で質問不許可の通知書が両議員に発出された。不許可の通知書は両議員で合計10枚あるが、簡単に言うと次のとおりである。
〇6月定例会では訴訟記録にある元職員の証言と市の見解が食い違うと指摘した。質問を許可すると元職員の証言が誤っていると評価され、有罪判決を受けた元職員の更生の妨げとなり、名誉や生活の平穏を害することとなる。これは刑事訴訟記録を「みだりに用い」ることに該当し、刑事確定訴訟記録法に違反する。
〇虚偽公文書作成・同行使罪の成立をいうが、そうであるのであれば捜査機関に告発すればよいのであって、あえて議会で質問する必要はない。
〇会議の主催者としては元職員が長岡市を被告とする国家賠償請求訴訟を提起するという訴訟リスクも見逃すことができない。
質問は市議会議員として正当な職務行為である
まず官製談合事件については、刑事事件となったことから長岡市内においては大きな関心事であることは間違いない。長岡市役所は家宅捜索も受けている。そのため質問には公共性が認められる。
事件の真相解明と再発防止という専ら公益を図る目的であることも認められる。意図的に虚偽の事実を摘示することによって有罪判決を受けた元職員を攻撃するようなことは当然許されないが、訴訟記録にもとづいて質問することが元職員の更生の妨げになるとも思えない。
丸山議長は「訴訟リスク」をいうが、質問には公共性と公益性がある。仮に虚偽の事実を摘示したとしても訴訟記録にもとづいているのであれば、誤信したことについて相当な理由がある。上述したとおり公共性と公益性もあることから、違法性は阻却されると考えられる。
そうであるのであれば仮に元職員から訴訟が提起されたとしても正々堂々と応訴すれば良い。議長という立場から「訴訟リスクがあるので、質問には細心の注意を払うように」と両議員に苦言する程度であれば構わないが、過度に萎縮する必要はない。「訴訟リスク」に萎縮してしまうと、議員は何も質問することはできなくなってしまう。
丸山議長は、刑事確定訴訟記録法違反もいうが、刑事法が専門の福島至・龍谷大学教授は「記録法が制限する『みだりな』利用は、正当な理由がないという趣旨だ」として、議会質問に使用することは問題ないと指摘している(前掲『毎日新聞』)。
また議会で質問せずとも捜査機関に告発すればよい、というのも丸山議長による独自の見解であり、質問を不許可にするほどの合理的な理由とは認めがたい。
このようにみると両議員の質問通告は議会制民主主義の立場から正当な職務行為であるといえる。他方で、これを不許可した丸山議長は議会内での発言の自由を違法に侵害したと言わざるを得ない。議会制民主主義を踏みにじる暴挙といえる。
もっとも、これは議長個人の責任に帰結するものともいえない。議長は議会多数派の信任を得て、議長という職責を担っているわけである。議長は公正中立でなければならないが、議会内の選挙等で選ばれている以上は、多数派の意向を無視するわけにはいかないのである。
要するに多数派は、すべてが解明されたとはいえない官製談合事件にフタをしようとしているのである。これでは多数派の圧力により議会制民主主義が正しく機能しているとはいえない。別の言い方をすれば、オール与党の弊害が如実にあらわれているともいえる。
諏佐議員に不当な問責決議
話しはこれだけで終わらず、9月定例会最終日では諏佐議員に対する問責決議が可決されてしまった。問責決議というのは、平たくいえば「あんた悪いことしたんだから責任を受け止めなさいよ」という議会の意見表明である。
問責理由は、諏佐議員がSNS上で質問を不許可として議長を批判したことを「議長の秩序維持権や指導を冒とくするもの」、また議会がオール与党となっておりチェック機能が崩壊しているのではないかという諏佐議員の意見論評が「全く根拠を欠くもので」「極めて無礼かつ不快な記述」などとしている。
問責決議は単なる議会の意見表明であるため法的な効果があるわけではない。労働組合の大会で内閣総理大臣の非難決議を可決するのと同様である。
ところが議会で問責決議が可決されたという事実が報道されたり、議会広報紙に掲載されたりすることによって有権者からは「何か悪いことをした議員」という印象を与え、有形無形の不利益を被ることとなる。
不祥事を起こした議員に対して議会が問責決議を可決することは正当な権利行使であるが、このように多数派にとって気に入らない議員を標的にした「少数派いじめ」として濫用されることもある。不当な問責決議を議会が可決することは、議会の権威を自らおとしめていることに気づくべきである。
本来であれば問責決議を受けなければならないのは言論封殺をおこなった丸山議長のほうである。諏佐議員は、「質問不許可は不当」として議長不信任動議を提出したが、与党会派の反対により否決されてしまった。
諏佐議員は筆者の取材に対して「慣例では問責決議案は提出前に事前通告があるもの。今回はまったくの不意打ちだった。私が提出した議長不信任動議に対する与党会派の報復ではないか」と答えた。
さらに諏佐議員によると自身が地盤とする地域に「諏佐議員に対する問責決議が議会で可決された」とする一方的な非難ビラがバラまかれたという。
これに対して諏佐議員に近い関係者は「明らかに不当な問責決議だ。『諏佐つぶし』として思えない」と反発を強め、「与党会派の横暴に負けずにがんばってほしい」と諏佐議員を激励した。
諏佐議員はSNS上で虚偽の事実を摘示したわけではなく、自身の意見論評を述べたにすぎない。一般質問を不許可にするだけでなく、意見の多様性を認めない不当な問責決議を可決した長岡市議会は、憲法21条が保障する「表現の自由」とは何か、一から勉強し直すべきである。
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