三島由紀夫の躍動を詠む『黒蜥蜴』『サド侯爵夫人』『わが友ヒットラー』

11回目の三島由紀夫読詠会ですが、次回はいよいよ戯曲をとり上げます。

この読詠会を始めるときに、私達は三島由紀夫の小説を「和歌を詠むように」あるいは「芝居の台詞を読むよう」に劇的に読んでみると、どのような相貌が作品に立ち現われるのかを味わってみようとの思いからスタートさせました。

結果は想像以上で、声を大きく出し、調子を張って詠む三島由紀夫の文章は本当に美しく、大理石の床やその上の石柱を見るがごとき、硬質で美的張力の高い響きが場を満たします。

これは耳の悦楽であり、魂の愉悦であると感じています。

やってみて気付いたことですが、「読詠」は精読の手段たりえます。

黙読だけでは感じ得なかったもの、つまり読み流していたものが、読詠によって「言霊が飛翔する」ように感じられるのです。

そして戯曲こそは、感情を込めて読まなければ意味のないものであり、「読詠」すべきものです。

そこで、今回は「読詠」本来の主戦場たる戯曲で、これまでの成果を試すこととしました。

日本の小説家の中で、三島由紀夫は例外的と言ってよいほど数多くの戯曲を書いています。そして、その多くが傑作です。

その理由としては、もちろんパロール(話し言葉)とエクリチュール(書き言葉)を判然と使いこなすことができるといった三島自身の希有の文学的才能とともに、幼い頃より祖母に連れられ、歌舞伎などの観劇に数多く触れてきた文化的な蓄積があるわけです。

また、評論家の奥野健男氏が

「三島由紀夫は、演劇にもっともあった体質と思考法をもっていたと言える。彼は自分をいつも対立矛盾した何人かの自己としてとらえていた。そしてなによりも弁解や説明がきらいであった。ものを定言的に裁断するのが好きであった。」

と指摘しているのも注目すべき事柄です。

小説では、定言的に裁断すれば話はそこで終わってしまいますが、演劇なら一つの会話が終われば、別の人間がそれを引きとり、新たな会話が生まれるというわけです。

三島の戯曲を詠んで強く感じることは、「三島由紀夫は本当に演劇が好きなのだ」ということです。

短編集『憂国』の作者自身による後書きで、三島は長編小説を書く自分を「重装兵士」になぞらえています。それに倣えば、私たちは三島の戯曲を詠めば、重い鎧兜を脱ぎ颯爽と大地を馳駆するがごとき伸びやかな三島由紀夫に出会うことができます。

詠んでいて実に胸躍り、楽しいのです。

それは、傑作の誉れ高い『サド侯爵夫人』や『わが友ヒットラー』よりも、はっきりとした活劇仕立ての『黒蜥蜴』にその傾向が顕著です。

今回のタイトルは「三島由紀夫の躍動を詠む」とさせていただきましたが、躍動感あふれる三島作品に会いに来ていただくことを希望しております。

作品を読んだことがない方、三島由紀夫の作品はとっつきにくそうだと思っていらっしゃる方にこそお勧めの読詠会なのです。

石原志乃武(いしはら・しのぶ)/昭和34年生、福岡在住。心育研究家。現在の知識偏重の教育に警鐘を鳴らし、心を育てる教育(心育)の確立を目指す。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会幹事。福岡黎明社会員。

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