令和2年3月で第8回を迎える「三島由紀夫読詠会」ですが、今回取り上げるのは、少し前に映画化されたSF小説『美しい星』です。
「あの三島がSF小説?」とお思いになられる方もいらっしゃることでしょう。
実際、日本では宇宙人だの空飛ぶ円盤だのと言っただけで、まともな小説と見なさない、色物扱いする傾向があります。
しかしながら、欧米では、舞台設定は架空の物であっても、それ故に逆に自由に設定できるテーマを基にして、思索を繰り広げる文学を決して低いものとは見なしません。代表的なSF作家であるアシモフやアーサー・C・クラークなどに対する評価は非常に高いものです。
この『美しい星』は終末論がベースとなっており、後半の討論部分は、ジョン・ウィンダムの傑作『トリフィドの日』にも勝るとも劣らない熱の入った優れたものだと思います。
このように書くと、また取りつきにくそうなイメージを与えそうですが、実際読めばお分かりの通り、この作品は極上のエンターテイメント小説で、一気に読めてしまいます。筒井康隆が、この小説を絶賛したのも頷けるものです。
そして、文章の硬質な煌めきはやはり、さすがとしか言いようのないもので、妻が夫のためにリンゴの皮をむくといった些末な場面ですら、
伊余子の確信にあふれた手は、深夜の燈火にナイフをきらめかせて、大きな印度林檎の、紅から黄に、黄から浅黄に、浅黄から白におぼめく繊細な色あひのつややかな皮を剝いた。
(三島由紀夫『美しい星』より)
となる訳で、三十代後半となり、いよいよ円熟の境地に入ってきた天才作家の熟達の筆の冴えを存分に味わえます。
この素晴らしさを、多くの方と共有できたらと思っております。奮ってのご参加お待ち申し上げております。
[clink url=”https://www.sejp.net/archives/2949″]
石原志乃武(いしはら・しのぶ)/昭和34年生、福岡在住。心育研究家。現在の知識偏重の教育に警鐘を鳴らし、心を育てる教育(心育)の確立を目指す。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会幹事。福岡黎明社会員。