千葉台風被害「自衛隊ありがとう」は良いが、自衛隊に依存し過ぎ?

安全保障
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令和元年9月9日に千葉県に上陸した台風15号によって多数の電柱や送電線用鉄塔が倒壊し、千葉県民は15日間にわたる長期停電に苦しめられた。

被災直後の停電戸数は最大で約94万戸(経産省)に上った。東京電力が発表した「復旧見込み」が何度も変更され、引き伸ばされたことも、多くの被災者を苛立たせる結果となった。

自衛隊による災害復旧支援

そのような中、今回も大活躍を見せたのは自衛隊だった。

9月10日早朝に千葉県知事などから災害派遣要請がなされ、患者空輸・給水支援・倒木除去・ブルーシートによる家屋応急処置支援・入浴支援など、17日には最大1万人規模の支援体制が組まれた。

東電による電力復旧作業を妨げたのは大量の倒木だった。今回のように広範囲に被害が発生した場合、重機と人力で瓦礫などを除去し、早期に道路を復旧させる能力は、今のところ自衛隊にしかない。

自衛隊による道路復旧活動(陸上自衛隊東部方面隊)

自衛隊「戦力」の投入がなければ、千葉の停電はさらに長引いていただろう。

被災者を苦しめたのは停電だけではない。約3万戸が断水し、市民生活に支障をきたした。水道供給にも電気が必要であり、水道インフラのための非常用電源が不足したためだ。窮状を救ったのは、やはり自衛隊の給水車と入浴支援だった。

給水支援(陸上自衛隊東部方面隊)

23日には千葉県山武市から撤収する陸上自衛隊の災害派遣部隊に対し、感謝を込めて見送るために多数の市民が集まり、その様子がSNSで拡散され反響を呼んだ。老若男女が口々に「ありがとう」と叫んでいた。

非常時に対応できない自治体

送電線を結ぶ鉄塔が台風で倒壊する、というのは余程の事態であるが、初めてのことではない。平成14年の台風21号でも東京電力管内で10基の鉄塔が損傷し、29万戸が停電した。

停電が続く千葉県内では信号用に設置された非常用発電機が盗まれる事件が発生したが、一方で県が保有する非常用発電機468台のうち250台が活用されず倉庫に眠っていたことが判明し、批判を浴びた。

今回の台風被害を通じてわかったことは、災害などの非常時対応が相変わらず脆弱であり、東日本大震災をはじめとする過去の教訓が活かされていないということだ。森田健作知事に対して批判が巻き起こるのも、当然というべきだろう。

自衛隊「災害派遣」の恩恵

平成7年の阪神・淡路大震災において、被災自治体首長による自衛隊への災害派遣要請が遅れ、結果的に被害が拡大した反省から、大規模災害時に自衛隊は自主的に出動できるように法改正された。

また、東日本大震災を通じて自衛隊の貢献度を知った多くの国民が自衛隊を支持するようになり、自治体が自衛隊を頼る政治的・心理的制約は格段に低下したといえる。

自衛隊側にとっても、災害派遣は直接国民に貢献できる数少ない機会の一つであり、非常時とはいえ国民との交流を通じてプラスイメージを与えることができるので、災害派遣の様子を積極的に発信している。

「自衛隊風呂」の前に立つ女性自衛官(陸上自衛隊東部方面隊)

「自衛隊風呂」の入り口に立って笑顔で被災者を出迎える若い自衛官の姿は、いじらしいほどだ。

大規模災害時には、治安も悪化する。日本人は比較的穏当で秩序正しいとはいえ、それでも一時的に無秩序化した地域では犯罪が増える。そのような中、自衛隊が存在するだけで被災者に与える安心感は計り知れない。

それでも自衛隊「依存」は危険

有事に無秩序化した地域に秩序をもたらすのは、軍隊の担う重要な役割であり、法的に「軍隊ではない」とされる自衛隊も例外ではない。

しかしここで指摘しておきたいことは、災害派遣は自衛隊の「主たる任務」ではないということだ。

「主たる任務」とは、当然ながら国防である。災害派遣は、治安出動や海外平和維持活動と並び、国防に支障のない範囲で行われる「従たる任務」にあたる。

東日本大震災では25万人弱に過ぎない自衛隊が、菅直人首相の命令により約10万人を復旧支援体制に割いた。

震災直後、ロシアや中国の軍用機が日本領空を侵犯するなど、平時以上の軍事的挑発を繰り返していたことは広く知られている。自衛隊は災害対応だけでなく、国防に関しても通常にまさる緊張を強いられていたのだ。

もし外国からの攻撃によって国内に甚大な被害が発生した場合、自衛隊は主たる任務として敵の排除に専念せねばならない。敵はミサイル1発を撃って行動を終了するとは限らない。空中からの攻撃の次は、大船団による強行上陸かも知れない。

日本の都市がミサイル攻撃を受ければ、地震や台風の比ではなく、多数の死傷者が発生し、あらゆるインフラが麻痺するだろう。そうなった時、頼みの自衛隊が助けに来てくれる可能性は低い。

有事(武力攻撃事態)における国民保護義務は、中央政府や地方自治体などの行政にある(国民保護法)。地方自治体は日本赤十字社やNHK、電気・ガス・輸送・通信などのインフラ企業を「指定公共機関」として警報発信や住民避難を担うことになっている。

国民保護法が制定されたのは平成16年だが、それ以降の災害対応を見る限り、自治体やインフラ企業側に「有事」における国民保護能力が備わっているようには思えない。

自治体にとって、いつ起こるかわからない大規模災害や武力攻撃のために限られた予算を充当することは簡単ではないだろう。結果的に、災害にあたって自衛隊の能力をあてにすることは合理的だ。

そもそも、非常時に備えるには現在の自治体規模(都道府県)は小さすぎる。「道州制」への再編を目指す統治機構改革は抵抗も大きく容易ではないが、せめて非常時対応体制(予算や人員など)については広域(道州規模)単位での構築が早急に必要だろう。

武力攻撃事態だけでなく、大規模災害に際しても「人命救助」「住民移送」「インフラ復旧」など、自衛隊に全面的に依存せずとも「自治体の広域連合」によってある程度まかなえるようにすれば、自衛隊も国防任務に集中でき、日本の安全性は高まるに違いない。

本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。新著『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』(Amazon kindle)。月刊国体文化に未来小説『恋闕のシンギュラリティ』を連載中。

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本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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