平成30年4月、映画『いぬやしき』(東宝)が公開された。この作品はシリーズ累計発行310万部を超える漫画が原作で、すでにアニメ化もされている。
人気漫画の実写映画化というのは、ある意味リスクがある。原作の人気が高い分、映画の出来が悪ければ原作ファンから強烈な批判を受ける可能性が高いためだ。
しかも『いぬやしき』は生身の人間が機械になり、ミサイル(のようなもの)を発射したり空を飛んだりする。必然的に、実写映画ではCGなどの特殊効果(VFX)を駆使せざるを得ない。
これまではハリウッド作品に比べ、邦画のCGレベルは格段に劣る、というのが常識だった。そもそも映画制作にかけられる資金規模が違うこともある。
しかし、映画『いぬやしき』はそのような原作ファンの危惧を払拭するどころか、観客を驚嘆させた。とにかく映像の迫力が凄いのだ。
出演者や制作者のインタビューによると、主人公などの演技の中に「フルCG」で制作された箇所が複数あるという。それが、生身の人間の演技と区別できないレベルなのだ。
この「フルCG」のシーンを制作するために、主演俳優(木梨憲武)の身体を「毛穴に至るまで」スキャンし、データ化したのだという。このような技術の飛躍的革新により、邦画の可能性はより広まったと言える。
出演者の演技も申し分なかった。佐藤健の悪役ぶりは真に迫っており、木梨憲武の弱々しい熟年サラリーマンも板についていた。原作とは若干イメージが異なるが、ベストの配役だったのではないだろうか。
物語の主な舞台は東京・新宿。この街の上空で2人の機械化された主人公が壮絶な戦闘を繰り広げる。大量虐殺と大規模破壊の連続は、観ていて逃げ出したくなるほどの圧巻だ。(これはテレビモニターでは体感できないだろう)
『いぬやしき』は、宇宙人の事故によって兵器型人造人間にされてしまう2人の男性の物語である。一人はその力によって凶悪な犯罪者になり、もう一人は正義のヒーローになる。
しかし凶悪な犯罪者の道を選ぶ主人公は、もともと悪い人間だったわけではない。普通の人間が、超人的な力を持つことによって暴走してしまう。これは決して特別なことではあるまい。
『いぬやしき』は映画化されることにより、よりシンプルなメッセージ性を得たと言える。
われわれ人類は産業革命以来の技術的革新により、誰もが超人的な力を得た。しかし果たして能力に応じた責任を持った人間がどれだけいるだろうか。『いぬやしき』では無責任なマスメディア関係者や匿名ネットユーザーが次々に殺される。虐殺されたのは、主体性を失った大衆そのものだ。
映画『いぬやしき』によって邦画はSFの新境地を開拓した。今後、新技術を駆使し、より深いメッセージ性を持った作品が続々と制作されることに期待したい。『いぬやしき』の続編もぜひ作って欲しいところだ。
▽映画『いぬやしき』公式サイト
inuyashiki-movie.com
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本山貴春(もとやま・たかはる)/昭和57年生まれ。独立社PR,LLC代表。戦略PRプランナー。『選報日本』編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。