新型コロナウイルス感染症を巡って急速に世界経済が悪化している。パンデミックによる直接被害を最小限に止めるために、国や都市レベルで人の流れを一時的に遮断することはやむを得ない。
しかし、だからこそ経済的な失速については政策によって挽回せねばならない。すでに各国では、そのための金融緩和や補償について各国政府が動き始めている。ところが、わが国ではその動きが明らかに鈍い。
そこで、3月9日にフリーランサー団体「サムライ☆ユニオン」として緊急声明を発表し、首相官邸にこれを提出した。主な内容としては、「消費税を含む大規模減税」と「一切の差別なき時限的個人補償の実施」を求めるものだ。
この声明についてNHK福岡から取材を受け、3月19日には福岡のローカル番組で放送され、同じ映像が3月24日の全国放送「おはよう日本」でも放送された。この番組内での私たちの主張について批判があるので補足説明しておきたい。
典型的な批判としては以下のようなものがある。
「社畜(サラリーマン)として生きるのが嫌で、自由を求めてフリーランス(個人事業主)になったくせに、困った時だけ政府に救済を求めるのはおかしい」
私はNHKによる取材に際して、「いわゆる自己責任論的批判がくるであろうことは承知している」とNHK側に伝えた。それについての反論も準備していたが、放送内容には含まれていない。それは放送枠の制約もあり、仕方なかったと考えている。
そこで以下に、自己責任論に対する反論を整理しておく。
自由を求めてフリーランスになったくせに?
基本的にはその通りで、「自分らしい生き方をしたい」という動機で独立する者は多い。「働き方改革」が掛け声倒れになっていく実態がある中、人間らしく生きるための選択肢として、フリーランスは魅力的だ。
その一方で、フリーランスには「収入が不安定である」というリスクがある。現在、フリーランスを選択している人の殆どは、そのリスクを承知している筈だ。だからこそ、困っていても痩せ我慢する者が多いだろう。
個人としては自己責任と言われても仕方がない。しかし、社会的問題としては別だ。そもそも、産業構造が大きく変化し、労働人口は第二次産業から第三次産業に「大移動」している。現在はその過渡期である。
そして第三次産業は、フリーランス的働き方と親和性が高い。
日本では解雇規制が厳しいこともあり、企業側も雇用を増やすよりも、一部を業務委託として外注する動きが強まっている。中には「勤務時間の拘束」がありながら、契約上は業務委託扱いにするという悪質なケースも増えている。
やむを得ない事情でフリーランスを選択せざるを得ないケースもある。早朝から満員電車に揺られ、長時間労働を強いられることで心身に不調をきたし、それでも生活を維持するための手段として個人でスキルを売る、という者も存在する。
サービス残業やサービス出勤は違法だが、中小企業の多くでは現在でもこれらがまかり通っている。地方の狭い人間関係においては、従業員側も泣き寝入りせざるを得ない実態がある。
しかも中小企業の多くは経営者の高齢化に伴い、その多くが消滅していくことが確実視されている。ビジネスモデルが古いことで、事業承継も進んでいない。現在、中小企業で働く労働人口の大半は、将来的にフリーランスに移行せざるを得ないだろう。
困った時だけ政府に救済を求めるのはおかしい?
今回の新型コロナを巡って、政府は様々な景気対策や救済策を提示しつつある。その中で、明確にフリーランスを「差別」した事例があった。
それは小中高校の「休校措置」によって休業を余儀なくされた保護者に対する補償で、サラリーマンに対しては日額8,330円であるのに対し、フリーランサーは半額以下の4,100円とされた。
サラリーマンもフリーランサーも同じ納税者であるにもかかわらず、職業によって差別されたわけで、このことについて合理的な説明は不可能だ。
私たちは「フリーランスを助けてくれ」と言っているのではなく、「同じ税金から救済するのに職業で差別するな」と言っているのである。「サラリーマンだけ特権的に救済するべき」という人は、その根拠を教えていただきたい。
「フリーランサーは社会的に不要」とでも言いたいのか?
個人事業主じたいは今に始まったものではなく、建築・飲食・マスメディア・芸能・出版・情報サービス業界など幅広い分野で経済を支えているのだ。
重要なのは景気対策
緊急声明では「従業員を雇用していない事業者」「就学児童の保護者では無い労働者」が救済措置から事実上除外されていることを指摘している。
その上で、景気対策こそが重要であり、そのための減税と個人給付の必要性を強調した。
サラリーマンであれば、勤務先が倒産しない限りは収入を失うことはないだろう。しかしフリーランサーは、景気悪化が収入の減少に直結する。この痛手は、企業経営者も同じである。経営者でもあるフリーランサーだからこそ、サラリーマン以上に景気対策の重要性を感じることができる。
この観点は、NHKの放送からは完全に除外された。NHKとしては政府の救済措置から非正規やフリーランスが「漏れている」ことを、先ず報道する必要があったのだろう。
景気対策で最も効果的なのは減税だ。現在国会では与野党問わず減税論が出てきている。消費税減税論も8%から0%まで様々だ。いずれにせよスピーディーな減税実施を求めたい。
個人給付については、「富裕層や公務員は除外すべき」という意見も散見される。私は、それでは景気対策としては効果を半減させると考える。富裕層が給付金を使えば、その金は景気を循環させ、景気がよくなれば困窮者も減るのだ。
また給付対象を選別すれば、それだけ行政側のマンパワーが必要となり、自治体に余計な負荷をかけることになる。すでに個人向け緊急小口貸付の受付が始まっているが、窓口はパンク状態だ。
日本はとにかく行政に無駄が多い。非効率な行政システムは日本の生産性を引き下げ、停滞をもたらす。無駄な仕事が行政内部だけで完結するなら良いが、実は民間側にも過大な負荷を掛けている。
私の経験では、介護福祉分野がその典型例である。介護事業者は、介護保険を受け取るために毎月膨大な書類を行政側に提出せねばならない。その労務は、介護サービスの充実に振り向けられるべきだ。
そのような無駄を一掃するのが「ベーシックインカム」という最先端の政策理論だ。新型コロナ対策を理由とする全国民一括給付は、ベーシックインカムの試行実験になりうる。そのチャンスを政府が潰そうとしている。実に先見性のない連中だ。
まとめ
新型コロナを巡る世界情勢はいまだに予断を許さない。東京五輪の延期も確実となり、イベント自粛ムードが解ける気配もない。感染症そのものは時間が経てば収束するだろうが、経済に与えるダメージはこれから強まるだろう。
デフレ下で2度にわたる消費税増税を〈成し遂げた〉安倍政権に、先進国並のまともな景気対策を期待する方がおかしいという気がしないでもない。だからと言って、国民側が〈座して死を待つ〉状態で良いわけがあるまい。
私は恥を忍んでNHKの取材に応えた。困っている人は痩せ我慢をせずに、どんどん発信して欲しい。政治を変えるのは、国民世論だ。政治が既得権層に独占されている現状を、打破しなければならない。