【参院選2019】れいわ新選組など、ミニ政党「政党要件獲得」への戦略とは

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あと数日で参院選の投開票日となる。同じ国政選挙でも衆院と参院では選挙制度上、異なる点が多い。その最たるものが「全国比例区」の存在だ。

衆院選挙においても参院と同じように比例代表制があるが、「東北ブロック」「四国ブロック」「九州ブロック」など、地域ごとの区割りになっている。参院選は「全国区」だ。

先に結論だけ述べると、参院全国比例は「ミニ政党が政党要件を獲得するのに最も可能性が高い選挙」ということになる。

政党要件とは?

「ミニ政党」とか「政党要件」などというと余計混乱しそうだ。順を追って説明する。これらの用語が理解できると、「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党」が何を目指しているのかわかるようになるだろう。

そもそも「政党」とは「特定の政治目的をもった集団」といった意味しかない。つまり「政治団体」の一種が政党である。(他の政治団体としては個人後援会や、政治思想結社がある)

より狭義には、「選挙を通じて同志を議会に送る政治団体」と言っても良い。

ところが日本には、「公職選挙法」「政治資金規正法」「政党助成法」などの法律があり、個別に「政党」の「要件」を定めている。その要件は法律によって微妙に異なるので、余計にややこしい。

つまり日本には、法的な「政党要件」を満たす政党と、満たさない政党が存在する。近年では前者を「ほんとうの政党」、後者を「政党を名乗るが単なる政治団体」とみなす風潮が強い。(個人的には如何なものかと思う)

実際に何が違うのか? 実は、法的な「政党要件」を満たす政党は、金銭的にも制度的にも大きな恩恵を受けることができる。その代表格が「政党助成(交付)金」である。

そして政党助成金を受け取る資格であるところの政党要件は、「直近の国政選挙で全国を通して2%の票を得ること」または「5人以上の国会議員を有すること」なのだ。

現時点で「5人以上の国会議員」を有していない政治団体(ミニ政党)が政党要件を獲得するために、最も手っ取り早い方法が、「参院全国比例で2%の票を得ること」であり、だからこそ参院選になると毎回ミニ政党が乱立するのである。

魅力的な政党交付金

政界に新規参入しようとしている政治団体(ミニ政党)が政治的基盤を得るには、政党交付金は魅力的だ。とにかく政治活動には金がかかる。

昔の政治家は企業献金などによって政治活動費を賄っていたが、献金が賄賂の役割を果たし、政治腐敗の温床になったことから「企業・団体からの政治献金」が規制されるようになった。献金規制と同時に、平成6年に作られたのが「政党助成法」である。

何と言っても金額が大きい。政党交付金の総額は日本の国勢調査に基づき、国民一人あたり250円を乗じたものとされる。人口が1億2千万人とすると、総額300億円。これを政党が山分けする。

ちなみに平成30年の政党交付金は、

  • 自民党 174.8億円
  • 公明党 29.4億円
  • 立憲民主党 27.6億円
  • 国民民主党 55.7億円
  • 日本維新の会 13.0億円
  • 社会民主党 3.7億円
  • 希望の党 2.7億円
  • となっている。

    これらの交付金は議員歳費などと別に、政党に対して支給される。資金の使途としては、政治活動にかかる人件費や事務所維持費が大半だが、実質的な選挙活動を行う上でも、極めて重要な原資だ。

    落選確実な都道府県選挙区候補者

    ミニ政党が政党要件を獲得するには「参院全国比例で2%の票を得る」のが最も近道だ。ところが参院全国比例に候補者を擁立できるのは、原則として政党要件を持つ政党だけである。その例外が、「確認団体」だ。

    確認団体とは、10名以上の候補者を擁立すれば、既存の政党と同様に参院全国比例選挙に挑戦できる制度のことである。本稿に何度も出てくる「ミニ政党」とは、すなわち「確認団体」なのだ。

    参院全国比例に確認団体として参戦するミニ政党は、全国津々浦々から「届出団体名(政党名)」または全国比例候補者個人名によって票を集めることができる。この合算で得票率が2%を越えれば、晴れて政党要件を獲得し、「ほんとうの政党」になることができる。

    一方、都道府県選挙区については、これらミニ政党が当選者を出せる可能性は限りなく低い。参議院都道府県選挙区の議員定数は多くの場合1議席。人口が多い都道府県で2議席以上となり、最大でも東京都の6議席だ。

    それでもミニ政党(確認団体)が都道府県選挙区に候補者を擁立する理由は二つある。

    一つは、都道府県選挙区において公営掲示板にポスターを貼ることや、選挙カーやビラによる選挙運動を行うことで、自らの所属政党や全国比例候補者への集票に繋げることだ。

    つまり自身は「落選確実」だが、目標を党の政党要件獲得に置いて自己犠牲を払うのである。

    もう一つが、「供託金の節約」だ。

    いずれの公職選挙においても、立候補者は事前に供託金を納め、一定の得票率を下回ればこれを没収される。参院選の供託金は全国比例600万円、都道府県選挙区300万円(いずれも1人当たり)。

    前述した通り、確認団体になるには最低10名の候補者を擁立せねばならない。ただしこの10名は、必ずしも全員が全国比例区である必要はない。

    10名全員が全国比例であれば供託金は6,000万円だが、全国比例区1名+都道府県選挙区9名であれば3,300万円で済む。

    多種多様なミニ政党

    上記の確認団体制度を利用して参院選全国比例に挑んだミニ政党は数多い。

    過去に挑戦し、儚く消えていったミニ政党としては「スポーツ平和党」「女性党」「自由連合」「9条ネット」「共生新党」などがある。

    実は、私じしん過去に所属していた「維新政党・新風」も確認団体として繰り返し参院選に挑戦した。しかし一向に得票率は2%に近づかず(最高で0.3%)、私を含め多くの党員が消耗し離党していった。

    「5人以上の国会議員」を有する既成政党でも、全国2%の得票ラインを下回れば、やがて政党要件喪失の憂き目にあう。

    3年前の参院選で「日本のこころ」が獲得した全国比例票は1.31%だった。このとき私は福岡県選挙区の選対本部長を務めたのだが、力不足で党勢維持に貢献できなかった。

    今回の参院選に関しては社民党が2%の全国得票率を達成できるか、個人的に注目している。直近の参院選では2回連続で2%台。平成29年の衆院選では1.69%と、初めて2%を下回った。日本社会党時代の威勢は見る影もない。

    今回は「幸福実現党」「れいわ新選組」「オリーブの木」「NHKから国民を守る党」「安楽死制度を考える会」「労働者党」が出馬。昔に比べれば数が減ったが、相変わらず多種多様で、選挙戦もユニークだ。

    今夏、2%超えのミニ政党はあるか?

    2%の得票率は、実際には何票くらいなのか。

    前回(平成28年)の参院選で2.74%だった社民党は約150万票。1.91%だった「生活の党と山本太郎となかまたち」は約100万票。投票数によって変動はあるものの、どんなに少なくとも100万票以上集票せねば、政党要件獲得の可能性はない。

    100万票という数字はそう簡単なものではない。どんな著名人でも、知名度や人気だけで100万票を一人で稼ぐことは滅多にない。ちなみに前回参院選では青山繁晴が約48万票、今井絵理子が約32万票だった。

    幸福実現党

    幸福実現党

    これまで衆参合わせて7回の国政選挙に挑戦している幸福実現党は、平成21年衆院選の約46万票、平成28年参院選の約37万票、いずれも得票率0.65%で頭打ちだ。今回は全国比例3名、都道府県選挙区9名、合計12名を擁立。前回の参院選の47名から大きく減らした。

    さらに近年は支持母体である宗教法人幸福の科学に不祥事が相次いでおり、得票を伸ばす要素はない。特に大川隆法総裁の長男で芸能プロダクション社長の宏洋氏が、インターネットや週刊誌などで「幸福の科学」を批判したことによるイメージ悪化は避けられない。

    れいわ新選組

    れいわ新選組

    代表の山本太郎は平成25年の参院選において東京都選挙区に無所属で出馬し、約67万票を獲得、4位で初当選した。

    今回は全国比例9名、東京都選挙区1名の計10名を擁立。山本太郎は東京都選挙区から全国比例区へ鞍替え出馬している。6年前とはかなり条件が異なるものの、現実的な戦略として政党要件獲得を狙っていることは間違いない。

    NHKから国民を守る党

    NHKから国民を守る党

    奇抜な選挙戦術でネット上の話題をさらっているのが「NHKから国民を守る党」(N国党)だ。

    N国党は全国比例4名、都道府県選挙区に37名、合計41名を擁立。北海道から沖縄まで、ほとんどの都道府県に「鉄砲玉」を立てており、日本共産党(公認候補14人)の倍以上である。

    N国党は今春の統一地方選で26人が当選し、注目を集めた。今回の参院選では確認団体にも認められている政見放送においてNHKを徹底的に糾弾し、SNS上で喝采を浴びている。立花孝志代表が自身のYoutubeアカウントに掲載した政見放送は200万回以上再生された。

    とはいえ、ネット上の評判はさほど得票には影響しない。面白がってN国党の動画を拡散するユーザー層が、こぞって投票所に足を運ぶとは考えにくい。

    オリーブの木

    オリーブの木

    「オリーブの木」という呼称はイタリアにあった政党連合として知られている。旧イタリア共産党を含む左派政党の連合体である。

    日本でもイタリアのオリーブの木に触発された複数の政治家が、「日本版オリーブの木構想」を描いてきた経緯がある。しかし今回参院選に挑む「オリーブの木」に、現職議員はいない。

    比例代表4名、都道府県選挙区6名の計10名を擁立。「新党憲法9条」「今治加計獣医学部問題を考える会」「世界平和の会」「平和の党」「沖縄・平和の党」「情報公開おおた」「自由国民党」が参加し、本家イタリアに倣って政党連合の体をとっているものの、知名度不足は拭えない。

    最も著名な候補者としては元レバノン大使の天木直人がいるが、過去の参院選に「9条ネット」から出馬した際の個人票は3万票に満たない。その他、自民党衆院議員として財務副大臣も務めた小林興起が出馬を予定していたが、公示直前に辞退している。

    安楽死制度を考える会

    安楽死制度を考える会

    全国比例1名、都道府県選挙区9名、計10名を擁立。代表で唯一の全国比例候補である佐野秀光は実業家で、「新党本質」「安楽死党」「支持政党なし」などとコロコロと党名を変えながら6回も国政選挙に出馬している。

    平成28年の参院選では「支持政党なし」が約65万票(得票率1.16%)を獲得して世間を驚かせたが、情弱の有権者がアンケート感覚で投票用紙に「支持なし」などと書いたものが同党の得票に算入されたと思われる。

    今回初めて「安楽死制度を考える会」という名称で参院全国比例に挑戦しているが、得票率1%を越えるとは考えにくい。

    労働の解放をめざす労働者党

    労働の解放をめざす労働者党

    全国比例に4名、都道府県選挙区に6名、計10名を擁立。驚くべきはその年齢で、「80才候補1人、70代候補2人のほか7名はすべて60代」という高齢世代の布陣。

    党代表で全国比例候補の林紘義は新左翼活動家として60年安保闘争に参加した経歴を持つ。政策についても公約らしきものは見当たらず、公式サイトには「100万票を獲得し、労働者の代表を国会へ!」と大書。政党要件獲得が目標であることだけはわかる。

    冥土の土産に立候補してみた、といったところか。

    頭痛が…

    以上、参院選を彩るミニ政党について真面目に分析してみた。私自身もミニ政党の一員として戦った経験があるので、この人々の気持ちがわからなくはない。しかし残念ながら、彼らが政党要件を獲得する可能性は極めて低い。

    各団体の公式サイトを見ても、その組織力や資金力、政治的実力について既成政党と雲泥の差があることがわかる。しかも、世間一般の人に伝わりにくい独自の用語や文体を多用しており、何を目指しているのかよくわからない印象も受ける。

    唯一、当選者を出す可能性があるのが「れいわ新選組」だが、今回から導入された全国比例「特定枠」に障害者の2名を指名するという奇策に出た。少なくとも300万票以上獲得しなければ、代表の山本太郎が参院議員に返り咲くことはない。

    いくらなんでも「れいわ新選組」が300万票も獲得するとは考えにくい。とすれば、参院で政党要件獲得後、山本太郎は衆院選への立候補を目指すのだろう。そこから野党再編の台風の目になる可能性はゼロではない。よくできた戦略だ。

    死屍累々のミニ政党の中から初めて「成功例」が生まれるのか。その結果は数日後に判明する。

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    『日本独立論: われらはいかにして戦うべきか? 』(独立社デジタル選書)
    主な内容:なぜ私はネット選挙を解禁したのか/日本核武装論とパブリックリレーション/北朝鮮による拉致は侵略戦争である/国と地方の権力構造/互助共同体仮説 流血なき内戦を戦え/日本政治のポジショニングマップ/三島由紀夫は何と戦ったのか

    本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

    本山貴春

    (もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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