歴史的傑作アニメ映画『海獣の子供』が描く「生命誕生の秘密」とは?

令和元年6月7日、アニメーション映画『海獣の子供』(渡辺歩監督)が公開された。

『海獣の子供』のアニメ制作を手がけた「STUDIO4℃」は、『となりのトトロ』『魔女の宅急便』の制作に携わった田中栄子氏が代表を務め、『AKIRA』の作画を担った森本晃司氏などが参加して昭和61年に設立された。

この映画の特長を一言で述べると、圧倒的な映像美であろう。

STUDIO4℃が5年もの年月をかけて完成させた映像は、従来のアニメに対する概念を根底から突き崩した。『海獣の子供』の映像は、どんな高解像度の実写映像よりも美しい。

大自然を舞台とする物語なのだが、ストーリー展開そのものよりも、観衆は作中の海原や天空の大迫力に心を奪われる。

『海獣の子供』のあらすじ

『海獣の子供』は、月刊IKKI(小学館)に平成18年から平成23年まで連載された、五十嵐大介氏による長編漫画である。すでに完結しており、全5巻が刊行されている。

主人公は港町に住む女子中学生・安海琉花(あずみ・るか)。

夏休み、琉花は「海」と「空」という名の不思議な少年たちと出会う。二人は海獣(=海棲哺乳類)ジュゴンによって育てられたため、陸上よりも海中の方が快適に過ごせるという特異体質を持っている。

琉花は思春期らしい不安定な毎日を送っていたが、二人の「海獣の子供」に出会うことで様々な冒険を経て、徐々に成長していく。

そしてある夜、隕石が日本近海(小笠原沖)に落下したことで物語が急展開を始める。あらゆる海洋生物が、その隕石の元に殺到し始めたのだ。

そして主人公たちも、その海中の「生誕祭」に巻き込まれていく。

ストーリの謎を解く「パンスペルミア仮説」とは?

この映画のストーリーは、やや難解だ。「なぜ、このような現象が起こるのか」「このシーンは何を意味するのか」を考えてみても、容易に答えは出ない。

一つ、この映画の核心となるテーマを挙げるとすれば、それは「パンスペルミア説」と呼ばれる、生命の起源に関する科学的仮説であろう。

パンスペルミア説は「胚種広布説」と邦訳される。

そもそも生命の起源が何だったのか、現代科学においても解明されていないが、長らく、生命は地球上で自然発生したと考えられてきた。

例えば近年、理化学研究所などが「深海熱水孔の周囲で微弱な電流を確認し、これが生命を発生させる役割を果たした可能性がある」と発表した。

他方、パンスペルミア説は「生命の起源が地球上ではなく宇宙にある」とする考え方である。スエーデンの科学者でノーベル化学賞受賞者でもあるスヴァンテ・アウグスト・アレニウスが20世紀初頭に提唱した。

それは、「そもそも生命は宇宙に広く多く存在しており、地球の生命の起源は他の天体で発生した微生物の芽胞が地球に到達し、進化した」というものだ。

映画『海獣の子供』公式パンフレット

このパンスペルミア説は長い間、科学の世界で顧みられることがなかった。真空かつ超低温の宇宙空間で生命が生存できるとは考えにくく、仮に存在しても地球に到達する際には大気圏突入時の摩擦熱で死滅すると考えられたためである。

しかし近年の宇宙開発に伴う実証実験により、宇宙空間でも生存可能な微生物が存在し、大気圏突入を乗り越えられる微生物も存在することが判明した。

ここへ来て、パンスペルミア説を支持する科学者が急増しているという。

平成27年からは日本のJAXAなどがパンスペルミア説を検証する宇宙生物学の実験「たんぽぽ計画」を、国際宇宙ステーションで実施している。

『海獣の子供』の中で「海のある星は子宮」「隕石は精子」といった表現が登場する。以下の、詩のようなフレーズも挿入されている。

星の。
星々の。
海は産み親。
人は乳房。
天は遊び場。

宇宙から飛来した生命の源(微生物のようなもの?)が地球の海に入り、そこから新しい生命が誕生する。まさにパンスペルミア説である。

物語のクライマックス「生誕祭」とは何か?

しかしこの物語の謎は、それだけでは解明できない。

作中では、魚などの海洋生物が「光って消える」という超常現象が描かれる。その集大成が、海中の「生誕祭」と呼ばれる大事件である。

迫力に圧倒されるものの、それが何を意味するのか明確な説明はなく、観客は茫然とする他ない。様々な示唆はあるものの、観客を置き去りにするストーリー展開を良しとするかは意見の分かれるところだろう。

この物語の背景には、おそらく原始的な人間の死生観と自然観がある。

現代人は死を「個体の終わり」と捉えがちだが、古代から人は生死を表裏一体のものとして捉えてきた。死は終わりではなく、新たな誕生であるという、仏教の輪廻転成にも通じる死生観だ。

あるいは生物の個体を単独のものではなく、集団による共同体や生活環境を含めた総体としての生命体と考える。その延長線上に、地球そのもの、あるいは宇宙をも含めた「一つの生き物」と捉える自然観である。

このような死生観や自然観は近代科学において否定されてきたが、近年の量子力学や素粒子物理学の高度な発展は、むしろ古代人の直感を肯定する方向に進んでいるように考えられなくもない。

『海獣の子供』原作漫画の第4巻に次のような、科学者が自問自答する台詞がある。

銀河の分布を観測して、宇宙の立体地図を作ったら。
宇宙の大規模な構造は、まるで泡がいくつも重なった形…
(中略)
宇宙が誕生して星が生まれ成長し死んでいく
その過程で作られた物質から
この世のすべてのものができている。
たったひとつのものの部分にすぎないのかもしれないな。
太陽も海も人間も…
僕たちは「内臓」…
“海のある星”は…原人の子宮…か。

『海獣の子供』第4巻148-149頁より

もっとも原作者の五十嵐大介氏はアニメ制作陣に対して「(この物語を)いかように解釈していただいてもいいですよ」(公式パンフレットより)と述べている。

観客の数だけ解釈の余地を与える本作について、確信をもって言えることは、「この映画はスクリーンで観た方が良い」ということだけだ。映画史に輝く歴史的傑作を目撃することをお薦めする。

海獣の子供 全5巻完結セット (IKKI COMIX)

本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

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