支援物資が迷惑に? 過去の大災害の教訓を活かす被災者支援とは

安全保障
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まさに未曾有の大災害だ。この水害を気象庁は9日、「平成30年7月豪雨」と命名した。

洪水などの水害はこれまでも各地で多々あったが、局地的な「集中豪雨」が多かったのに対して、今月の水害は西日本全域に及んだ。河川の氾濫などにより家屋や車両が水没し、死者も合計で百名を超えている。

こういう時に、早速「被災地への支援を!」と声を挙げるなり行動を始める人は偉い。普通の人は、自分の日々の生活に精一杯で、なかなか人助けをする余裕がない。

ましてや今回は非常に広範囲の水害である。記事執筆時点では、依然として広島の一部が濁流に呑まれている。被災者を支援するにしても、どこから手をつければ良いかわからない程だ。

「折り鶴」を被災地に送るのは迷惑?

そんな中、ツイッターに投稿されたある文章が話題を呼んでいる。

豪雨被災地へ折り鶴を送らないで。邪魔だし、捨てづらい。完全に作る側の自己満足です。東日本大震災経験者より。(筆者抄訳)

同じ趣旨の発信は複数あり、賛否両論の議論を呼んでいる。他にも、支援物資の内容や、ボランティアに行くタイミングについて注意喚起する投稿があり、それに対しての賛同と反発がある。

このようなSNS上の喧騒をみて思うのは、過去の災害から学ばない人の多さである。もちろん、同じ災害からどのような教訓を得るかは人によって違うだろう。それにしても、せっかくの経験が共有されていない。

私は平成23年の東日本大震災に際してボランティアとして現地で活動した。福岡から支援物資も持って行ったし、現地では大量に集まる支援物資の仕分け活動に従事した。

そこで折り鶴を見た記憶はない。宮城県に初めて入ったのが震災から2ヶ月経ってからだから、それ以前に届いていればわからないが、ボランティア団体の建物内でも見た記憶がない。あるいは、目に入らなかっただけかも知れない。

従って、折り鶴に関する被災者の感想も耳にしていない。もし聞いても、東北人は奥ゆかしいので本音は言わないかも知れない。しかし現地の空気感からすると、ありがた迷惑といったところではないか。

支援物資が迷惑に?

豪雨で甚大な被害が出た岡山県倉敷市で、支援物資の受け入れを休止するという報道が出た。以下、一部引用する。

今回の豪雨で大きな被害を受けた岡山県倉敷市は、全国から食料や服などの支援物資の提供を受け付けていましたが、避難所などへの配送作業が滞っているとして、支援物資の受け入れを一時的に休止することにしました。(中略)倉敷市は「被災者のニーズと合っていない秋冬の衣服などの提供も多く、避難所のスペースを圧迫してしまっている。今後、必要とされている物資をしっかり届けるためにも休止に理解してほしい」と話しています。

NHK

経験から言うと、支援物資の仕分け作業というのはかなりの重労働だ。民間から届く支援物資には実に様々なものがあり、被災者のニーズに合わせて配布できるようにボランティアが分別しなければならない。

東日本大震災で宮城県のボランティア団体に届いた支援物資。この中で仕分け作業を行った。

そのニーズが、なかなかマッチしないのだ。要らないもののトップは古着だろう。良かれと思って送っても、最終的に被災地側がゴミ処分費用を負担せねばならないという笑えない事態も起こりうる。

他にも、海外から送られてきたインスタント食品が、被災者の舌に合わなくて大量に余ることもあった。被災直後は贅沢も言っていられないが、合わないものは合わない。

その時のインスタント食品は、最終的にはわれわれボランティアがありがたく頂いた。何日もその食事が続いて、正直つらかった。

ボランティアもタイミングによっては迷惑に

ボランティアとして現地へ行くのも、事前によく調べ、現地のボランティア団体や自治体に受け入れの了承をもらってから行くべきだ。

何も考えずに被災地に行って、逆に被災者の世話になっていた人物も知っている。そんなことになれば本末転倒だ。

被災地ではホテルもコンビニも営業しておらず、道路の信号も、トイレの水道も止まっている。車で行ってガソリンを補給できる保証はない。行くなとは言わないが、ある程度時間が経って、現地の状況がわかるようになってから行くべきだろう。

一番良いのは「お金」

被災直後はお金を使うのもままならないが、被災して一番困るのがお金だ。後々、行政から若干の支援金が出ることもあるが、時間がかかるので当座のお金に困る。お金がないと、いつまでも不自由な避難所にいないといけない。

災害直後の支援は募金が一番良いのだが、どの団体を経由して募金するのかも要注意だ。

東日本大震災の時は募金詐欺を警戒して日本赤十字社への募金が呼びかけられたが、赤十字が被災者支援を行ったのは地震から半年ほど経ってからだった。

赤十字は事務経費として募金の中抜きを行なっており、しかも被災者への支援は家電製品などの現物支給だったのだ。これには東北の被災者も怒っていた。

一番良いのは、現地の自治体や、現地で活動する災害ボランティア団体への支援、あるいは知っている被災者への直接送金だろう。もし企業や団体など、自分が所属する全国組織があれば、なおスムースに支援できる。

現金は邪魔にならないし、最も必要とされる。

記事冒頭の「折り鶴」論争に絡んで「紙幣を折り鶴にすれば良いのでは?」と冗談で言う者もいたが、解くときに破れかねないし、宅配便で送ると違法行為になるので真に受けないようにして欲しい。

善意の押し付けにならないように

被災地へ折り鶴や寄せ書きを送って、それに励まされる被災者もいるだろう。小売店も被災して、支援物資に助けられることもあるだろう。はるばるやって来たボランティアに慰められる被災者もいるだろう。

しかし被災地のニーズは刻々と変わる。良かれと思ってしたことが、被災者を苦しめることもある。私も被災地でのボランティア活動の中で、意図せずそのような現場にぶつかったこともある。

日々真面目に働いて暮らしていたのに、生活環境を根こそぎ奪われ、家族や友人、財産を失った人の気持ちを、外部の人間が想像するのは困難だ。だからこそ、支援する時は被災者のニーズを最大限考慮して欲しい。

ニーズを無視した善意の押し付けは、単なる自己満足であり、害悪なのだ。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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