こうすれば防げた「森友学園への国有地売却決裁文書」書き換え問題

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森友学園への国有地売却に関連する財務省内の「決裁文書」が書き換えられていた事件は、国税庁長官の辞任という事態に発展した。決裁文書の書き換えは刑法155条第2項有印公文書変造罪に該当する可能性がある。

自民党の和田政宗議員は、

「(書き換えられた)調書は別添扱いで、売買契約書本体に作用を及ぼすものではなく法的に問題は無い、書き換えも問題無いと甘く考えていたか」

公式ブログで財務省職員の心理を推測している。

何故いまだに「紙」の決裁書なのか?

この報道を目にした時、私が疑問に思ったのは「中央政府の稟議決裁フローが電子化されていなかったのか」ということだった。私自身、過去に勤めていた会社で「社内稟議システム」の導入と運用に携わったことがある。もう10年くらい前の話だ。

大企業では、大きな金額の費用を支出する際や、他社と契約を結ぶ際などに、内部統制の一環として「稟議決裁」を行う。担当者が実施したい内容とその根拠などを整理した文書を作成(起案)し、上司に提出、徐々にエスカレーションして最終的な決裁権限者の承認をもって実行可能となる。

インターネットが普及する前は、この「稟議決裁」は紙で行われていた。定型フォーマットの稟議書表紙に、起案日、起案者名、金額、決裁内容、決裁日などと並んでマス目上の「押印欄」があり、稟議者が順に捺印するのだ。

財務省が国会に提示した決裁文書。明らかに電子決裁ではない

そして可決された稟議書は、会社の重要書類として鍵のかかる書庫で厳重に管理されていた。稟議書は予算執行の際などに写しを添付する必要があるので、紛失が許されないし、会社の経営戦略に関わる機密事項が書かれている場合も多いので、権限がないと閲覧できない。

このような「紙の稟議書」は重要なものだが、会社の意思決定に時間がかかるという難点があった。何らかの施策を素早く実行したくても、会社の承認を得るためにはペーパーを持って上司のデスクを周り、一人ずつ印鑑をもらわなくてはならない。さらに、過去の稟議書を探すのも分厚いファイルをめくらねばならず、面倒だった。

この「稟議決裁」を電子化することで、非常に業務効率化できた。導入当初は社内の反発(使い方がわからないなど)もあったが、懇切丁寧に説明し続けることで、徐々に利便性が理解され、最終的には現場スタッフからも喜ばれたように記憶している。

実は稟議書を電子化する際に役員から受けた要望があった。稟議の途中で、内容を修正できるようにシステム変更して欲しい、という内容だった。(ちなみに、稟議決裁フローシステムは販売されており、会社ごとにカスタマイズするのが一般的)

紙で稟議書を回す際、上席者が赤ペンを入れて修正する、ということが慣例化していたためだ。しかし稟議書の性質上、後から修正できてしまうことには問題がある。そこで、修正が必要な場合には、コメントを付けて起案者に差し戻す仕組みにした。

電子化されていれば、書き換えは不可能

今回の財務省の決裁文書書き換え問題は、決裁フローが電子化されていれば生じ得ない問題だったのではないだろうか。民間企業の「稟議システム」も役所の「決裁システム」も、そう違いはない筈だ。

稟議システムの一例(X-point Cloud)

そこで、政府の「決裁システム電子化」について調べてみた。

総務省が公表している資料によると、日本政府の「電子決裁システム」導入は平成21年に始まり、平成28年度時点で全体平均91.4%まで普及している。

電子決裁率 年度推移(総務省統計)

この普及状況は省庁別にも公表されており、「書き換え問題」が発生した平成27年度の財務省・地方支分部局の普及率は84.2%(前年度は48.3%)だった。他の官庁に比べ財務省が特別遅れている、ということもない。

なお総務省は、

「業務の性質上電子決裁に馴染まないもの(例:人事案件等)が含まれており、100%にはならない」(平成28年度 政府における電子決裁の取組状況)

としている。森友学園への国有地売却案件は単に電子決裁システム化に乗り遅れたのか、「馴染まない」と判断されたのかは不明だ。

政府内電子決裁の普及について総務省は「これまで紙で行われていた決裁を電子的手段により行うことは、業務処理過程における意思決定の在り方の見直しなど、公務員のワークスタイルの変革につながるとともに、行政文書の適切な管理に資するもの」としている。

さらに、平成30年2月に野田総務大臣は記者会見で、

「(政府は)行政手続きのオンライン化やペーパーレス化の徹底を図っていますが、(中略)これまで主に事務方にとどまっていた電子決裁を、大臣まで全面的に実施することといたしました」

と述べ、移動中にタブレット端末で決裁できる等のメリットにも言及している。

アクションプランを踏まえた電子決裁取組状況について(総務省)

電子決裁が徹底されたとして、今回のような決裁文書書き換えは防止できるだろうか。まず、担当者レベルでは(ハッキングでもしない限り)不可能だ。しかし、プログラム開発者を使って組織ぐるみでやれば、理論上はありえなくはない。

政府がブロックチェーン導入を検討

この点について、元大蔵官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、

「過去の文書の改ざんができないように、ブロックチェーンを使った省庁横断的な電子公文書管理の仕組みをつくる、などを考えるべきだ」

と述べている。

▽森友文書問題で「財務省解体」「財務大臣辞任」はやむなしか(現代ビジネス)
gendai.ismedia.jp/articles/-/54806

ブロックチェーンといえば、代表的な仮想通貨「ビットコイン」の基幹システムとして知られている。ブロックチェーンとは、データをネットワーク上の複数の端末で分散管理する仕組みのことで、データの改変や毀損を防止できる画期的なシステムだ。

ビットコインはブロックチェーンを基幹システムにすることで取引履歴を分散管理し、かつ安全に秘匿できるようになっている。ブロックチェーンの技術は、不動産、医療、個人情報管理など、幅広い分野で導入が進んでいる。

実はすでに総務省もブロックチェーンを導入する方針で、先ずは「法人設立の行政手続き」や「競争入札」などの分野で実用化を検討しているという。決裁システムについてもブロックチェーンを導入すれば、絶対に改竄できなくなる。

▽電子申請にブロックチェーン活用 政府、まず入札 (日経新聞)
www.nikkei.com/article/DGXLZO18244550Z20C17A6MM8000/

たしか、法律を作る際の考え方として聞いたことがあるのが「理念を語るときは性善説で、制度を作るときは性悪説で」という言葉だ(出典があるのかと思って探したが見つからなかった)。まさに至言だと思う。

今回の「事件」が政局に発展するかは不透明だが、二度と同じことを繰り返さないためにも、「文書書き換えができない仕組み」に変える良い機会とすべきだろう。

本山貴春(もとやま・たかはる)/昭和57年生まれ。独立社PR,LLC代表。戦略PRプランナー。『選報日本』編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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