史上最も不恰好なヒーローを描く大人向けアニメ『いぬやしき』とは

いま急激に注目を集めているアニメがある。『いぬやしき』という変わったタイトルのアニメだ。

漫画の原作者は『GANTZ』(ガンツ)で知られる奥浩哉。講談社の青年向け漫画雑誌『イブニング』に今年(平成29年)まで連載された。すぐにアニメ化され、12月までにフジテレビ系深夜枠で放送されている。

このアニメはいわゆるヒーローもの、SFアニメにカテゴライズされる。が、異様なのは主人公の容姿である。主人公・犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)は冴えない初老男性。設定は58歳だが、70歳以上にしか見えない。

都内で勤務するサラリーマンなのだが、仕事ができるようには見えない。妻や子供達からも馬鹿にされるような存在で、冒頭から末期ガンを宣告されるなど、夢も希望もない存在として描かれる。

物語では、そんな主人公がある日突然、ひょんな事から超人的なパワーを得る。その戦力は、暴力団や警察、軍隊すらも叶わない程のスーパーパワーである。主人公はそのパワーを活かし、事件や事故に巻き込まれる庶民を救っていく。

しかし超人的パワーを得たのは主人公だけではなかった。もう一人いたのだ。それが高校生の獅子神皓(ししがみ・ひろ)だ。獅子神は他人の死に痛みを感じない。そして特に理由もなく殺戮を繰り返す。アニメではその凄惨な場面が執拗に描かれる。とても子供に見せられないほどに。

アニメや映画など、昔から多くの作品で描かれた「超人的パワー」。ロボット、改造人間、宇宙人など、パワーの由来は様々だ。しかし共通した課題として突きつけられるのは、「パワーを使う者の道義性」ではないだろうか。

もっとも古いヒーローものである『鉄人28号』はリモコンで動かすことができる。リモコンを持っているのが主人公であるうちは、鉄人28号は正義のために戦う。しかしリモコンが一度「敵」の手に渡ると、悪の手先となってしまうのだ。

『鉄人28号』のリモコン

『いぬやしき』でスーパーパワーを得た2人は、いずれも特別な人間ではない。その辺にいそうな存在だ。ほんの少し正義感が強かったり、ほんの少し残虐性を秘めていたりする。それだけの違いで、スーパーパワーを得たときの行動が両極端になってしまう。

考えてみれば、これは人間の性(さが)なのかも知れない。例えば徴兵されて戦場に立った時、ふだん大口を叩く人間が逃げ惑ったり、小心な人間が躊躇なく敵を撃ったり、ということがある。

現実には、アニメに出てくるような超人的パワーというものは存在しない。ある日突然、鋼鉄を曲げる腕力を持ったり、空を飛んだり、エネルギー波を放ったりできるようになることはない。

しかしわれわれにはパワーがある。科学文明の発展により、われわれは山に穴を開け、海に島を作り、鳥よりも早く移動し、一発の爆弾で都市を壊滅させることもできる。そのスーパーパワーを持つのは悪の帝国だけではなく、民主主義国家もそうなのだ。

民主国家の庶民は、アニメに描かれるのと同等か、それ以上のスーパーパワーを持っており、そのパワーを行使できる潜在的「権利」を保持している。問題は、それを自覚していないことである。特に日本人はそうだ。

わが国は憲法9条によって戦力保持が禁止されている。自衛隊は保持しているが、戦力を行使することはできない、ということになっている。しかしその戦力をいつ、どのように、何のために行使するか、行使しないかは、国民の判断にかかっているのだ。

さて『いぬやしき』だが、平成30年4月には実写映画になる。日本の新ヒーローとしてどのように描かれるかが楽しみだ。

いぬやしき(1) (漫画)
『いぬやしき』(アニメ)

本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

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