令和5年10月4日、埼玉県議会に埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例案が提出されたが、10日、世論の反発を受け撤回される見通しとなった。
元々の埼玉県虐待禁止条例は平成29年に自民党県議団を中心に提案され、成立。今回も議員提案による改正案が委員会を通過し、本会議で成立する見込みだった。
平成29年の条例は、同県内で相次いだ児童の虐待死を背景にしていた。そもそも虐待防止は法律によって定められているが、同県内では児童や高齢者への虐待事件が増加傾向にあった。そこで自民県議団は法律よりも虐待の定義を広げた条例を制定していたのだ。
同条例は福祉施設等における安全配慮義務や虐待防止研修の義務づけ、虐待通報窓口の整備と警察を含む情報共有の強化、乳児家庭全戸訪問事業等の促進などを謳っている。
今回追加が検討されたのは以下の条文だ。
(児童の放置の禁止等)
埼玉県議会
第六条の二 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない。
2 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日を経過した児童であって、十二歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置(虐待に該当するものを除く。)をしないように努めなければならない。
3 県は、市町村と連携し、待機児童(保育所における保育を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る児童であって保育所における保育が行われていないものをいう。)に関する問題を解消するための施策その他の児童の放置の防止に資する施策を講ずるものとする。
第八条に次の一項を加える。
2 県民は、虐待を受けた児童等(虐待を受けたと思われる児童等を含む。第十三条及び第十五条において同じ。)を発見した場合は、速やかに通告又は通報をしなければならない。
いずれも罰則のない努力規定でしかない。提案者は委員会で「短時間でも子どもに留守番をさせる」ことや「子どもだけで登下校させたり、公園で遊ばせたりする」ことも同条例での禁止事項に当たると説明したことから、教育関係者や親世代から「非現実的」などと批判が続出した。
条例改正案は小学生以下の児童を、常時大人の管理下に置くことを目指したものだ。しかしこれが成立すると、あたかも「子どもだけの留守番やおつかい・登下校=虐待」と見なされ、「それを見つけたら通報する義務」があるように受け取られ、感情的な反発を引き起こす結果となった。
実際には、今回の条例改正案で新たに虐待の定義を拡大しようとしたわけではない。しかし提案者は委員会などで「子どもの放置=虐待」との認識を示していた。平成29年の同条例成立を「先進的」と自負していた自民県議団としては、思わぬ世論の反発に面食らった形だ。
もし「子どもの放置」を無くしたいのであれば、無料スクールバスの整備や、ベビーシッター利用の助成など、実態に即した子育て支援策とセットでなければ親世代の理解は得られない。一方的に保護者に義務だけを押し付けようとした自民県議団の姿勢に問題があったといえる。
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