昭和46年に石ノ森章太郎原作によって始まった子供向け特撮ドラマ「仮面ライダー」の通算31作品目が放送開始された。『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日)である。
『仮面ライダーゼロワン』のテーマはなんと「AI(人工知能)」だ。
そして主人公は人工知能搭載ロボット「ヒューマギア」を製造販売するIT企業「飛電インテリジェンス」の社長という設定になっており、仮面ライダーへの変身技術も同社の製品によるものである。
スーパーヒーロー兼IT社長といえば思い出すのは米国映画の『アイアンマン』(軍需企業の社長が自社開発したパワードスーツで悪と戦う)だが、『ゼロワン』の方は創業社長の死去に伴い、その孫である主人公(飛電或人)が突然会社を継ぐことに。
第1話で早速「ヒューマギア」が何者かの手によって一斉に暴走し、遊園地にいる一般市民への攻撃を開始するのだが、まだ敵の正体は明らかにされていない。
ただ、創業社長は自社のAIロボットが暴走し、人類に危機をもたらすであろうことを予見するメッセージを遺していた。
「ロボットの暴走」はありえるのか?
「AIロボットの暴走」により人類が危機に直面するというストーリーは決して目新しいものではない。とくに米国のSF映画には、古くは『ターミネーター』シリーズ、近年では『アイ,ロボット』(2004年)や『エクス・マキナ』(2015年)が記憶に新しい。
他にもAIとの擬似恋愛をテーマにした『her 世界でひとつの彼女』(2014年)など、AI関連作品は増えている。
AIの進化とIoT(Internet of Things)の普及は同時進行だ。あらゆる製品がインターネットに接続し、それらのセンサーがビッグデータを収集することでAIの学習(ディープラーニング)が進んでいく、と考えられている。
このようなAI/IoTの発達によって生じるリスクは色々あるが、その一つに敵意ある第3者からのハッキング(正確にはクラッキングという)がある。
例えば、自動車の自動運転が普及したとき、人為的な自動車事故は激減するはずだが、自動車が外部の者(クラッカー)によって遠隔操作され、意図的に「暴走・衝突」させられる、という事態が考えられる。
すでに現在でも、コンピューターやスマートフォンがハッキングされ、遠隔操作されたり個人情報を抜き取られる事件は枚挙にいとまがない。IoT製品が普及するほど、当然ハッキングのリスクは高まる。
しかしそれ以上に恐れられている(あるいは期待されている)のが、「シンギュラリティ」と呼ばれる現象である。「シンギュラリティ(Singularity)」は直訳すると「技術的特異点」といい、人工知能が人類の知能を超える段階として想定されている。
科学者の中には「シンギュラリティが来れば人類はAIによって自然淘汰される」という論者も少なくなく、とくに欧米には警戒感が根強い。
『仮面ライダーゼロワン』の敵がハッカー(クラッカー)なのか、制御不能になったAIなのかは未だ不明だが、まさに現代に即したテーマといえる。
日本はAI開発競争で生き残れるのか
比較文化論的によく言われることであるが、欧米などで「AI」や「ロボット」が心理的に警戒される対象(前述の映画作品群)であるのに対し、日本では『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に見られるように機械に人格を投影する傾向がある。
その背景には宗教観の違いがある。キリスト教では創造主が人格(魂)を与えるのは人類のみであり、他の動物は人類の役に立つ(使役・食糧など)ものとして位置づけられる。
それに対し日本には古代アニミズム信仰が生きており、動物や物体にも人格(あるいは神格・霊魂)を認める。(現代でも屠殺された動物や使い古された日用品を大真面目に供養する風習が残っている)
このような宗教観や習俗の違いが、映画やアニメのような娯楽作品にも反映されているのだ。
米国や中国を中心に激しさを増すAI開発競争。日本は完全に出遅れているが、いち早くAI社会に順応するのは日本人かもしれない。
西暦2045年ごろにも起きると想定されているシンギュラリティを日本から起こすくらいの意気込みで、(特撮やアニメだけでなく)国内のIT企業にも頑張ってもらいたいところだ。
本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。
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