日経新聞「堤防をかさ上げしても水害を防げる保証はない」と行政を免責

政治
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令和元年10月14日、日経新聞電子版に「『もう堤防には頼れない』国頼みの防災から転換を」と題する主張記事が掲載された。論旨としては賛同できる点もあるものの、ツッコミどころが多いので一部引用しながら論評してみたい。

記事は10月13日に台風19号によって水没した長野市の航空写真を示しながら主張を展開している。

「…近年、頻発する災害は行政が主導してきた防災対策の限界を示し、市民や企業に発想の転換を迫っている。(中略)気象庁は「命を守る行動を」と呼び掛けたが、逃げ遅れる住民が多かった。(中略)堤防の増強が議論になるだろうが、公共工事の安易な積み増しは慎むべきだ。(中略)堤防をかさ上げしても水害を防げる保証はない。人口減少が続くなか、費用対効果の面でも疑問が多い」

防災について行政に依存するのではなく、市民や企業にも事前の対策が必要なことはその通りだろう。行政が頼りにならないことは東日本大震災と、それ以降に発生している地震や水害によっても国民の間で共有されつつある認識だ。

「治水」に全力を上げてきた為政者たちを忘れるな

しかし、そもそも防災は政治の基本中の基本である。なるほど地震も洪水も天災であって、これらが発生することを止めることは誰にもできない。しかし、大規模災害を想定して準備し、被害を最小限度に抑えることは政治の使命である。

特に「治水」は歴史的に見ても為政者の能力を試される分野だ。わが国のように自然災害の多い国であればなおさら、人の手によって災害を防ぐ努力が続けられてきた。犠牲を無駄にしないために、悲劇の記憶は受け継がれ、再発防止に役立てられてきたのだ。

「公共工事の安易な積み増し」などという安易な言葉で政府の責任をごまかすべきではない。

地方自治のあり方こそ論ずべきでは

記事の末尾にはこうある。

「…もし(台風19号)上陸が平日だったら企業活動や工場の操業にどんな影響が出たか懸念が残る。企業がテレワーク(遠隔勤務)などを真剣に考え、経済活動を維持する工夫も欠かせない」

経済専門紙らしい観点といえばそう言えるが、ちょっと感覚が古すぎるのではないか。平日勤務ばかりが日本の経済活動ではない。連休だからこそ稼ぎ時だったという業種も多いはずだ。

また、大規模災害時にテレワークなどと悠長なことも言ってはいられまい。それよりも、台風にも関わらず従業員を出社させる経営層を糾弾すべきではないか。

記事全体として、「行政が主導してきた防災対策の限界」があるゆえに「市民や企業に発想の転換」という自己責任を論じている印象だ。

不思議なことに、防災行政における地方自治体の責任については言及されていないのである。現在の地方自治の枠組みでは、大規模な災害対策はどうしても中央政府に依存せざるを得ない。しかし実際に防災に取り組むのは自治体である。

であるならば、防災に関する中央政府の予算と権限を地方に委譲し、地方の側も都道府県の枠を超えた広域連合で本格的に防災に取り組むべき時期が来ているのではないだろうか。

無責任行政におもねる日経新聞の主張は、全く益するところがないと断ぜざるを得ない。

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本山貴春(もとやま・たかはる)独立社PR,LLC代表。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。新著『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』(Amazon kindle)。月刊国体文化に未来小説『恋闕のシンギュラリティ』を連載中。

本山貴春

(もとやま・たかはる)選報日本編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会事務局長。福岡大法学部卒(法学士)。CATV会社員を経て、平成23年に福岡市議選へ無所属で立候補するも落選(1,901票)。その際、日本初のネット選挙運動を展開して書類送検され、不起訴=無罪となった。平成29年、PR会社を起業設立。著作『日本独立論:われらはいかにして戦うべきか?』『恋闕のシンギュラリティ』『水戸黄門時空漫遊記』(いずれもAmazon kindle)。

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