近年ますます、台湾への領土的野心を強める中国。その動きに危機感を強める読者も少なくないだろう。
台湾は、かつて日本が中国から一時的に奪って植民地にした、という説が日本社会ではまかり通っているが、それは史実ではない。実は、中国が台湾を支配する正当性はそもそもないのだ。
例えば、17世紀の台湾がオランダ領だったということを、どれだけの人が知っているだろうか?
台湾の原住民
台湾には固有の原住民が存在する。台湾はもともと台湾であり、オーストロネシア語族、平たく言えば、フィリピンなどの東南アジア系の民族が生活していた国だった。
一方、大陸中国は、漢民族以外の民族を、「夷狄(いてき)」と呼び、自分たちよりも劣った民族だと軽蔑してきた歴史がある。当然、台湾についてもそのような視点でしか見てこなかった。
「台湾よ、お前の珍しいものや金品を寄越せ、そしたらお前らの存在を認め、大陸からの珍しいものをくれてやる」という、チンピラのようなやり取りが想像されるわけだ。
それはあくまで国と国の関係であって、それ以上のものではない。いわゆる朝貢関係をもって、支配権の根拠とはならないのだ。
オランダ統治時代の台湾(1624−62年)
本気で中国が台湾に注目し始めたのは、豊臣秀吉の時代、大陸でいえば明の時代になってからだ。このころ、「倭寇」といわれる、中国・朝鮮に対して海賊行為や密輸を行う日本のギャング集団が、台湾を拠点として活動していた。
この「ギャング活動」には一抹のためらいもなかったようだ。倭寇が生まれたのは、鎌倉幕府が滅んでからで、鎌倉幕府の後期には、元寇(モンゴル・中国・朝鮮連合軍)による日本への大侵略、大虐殺が行われていた。その報復感情が強かったというわけだ。
同じく明の時代、日本では織田信長が、武田信玄の息子勝頼率いる騎馬隊を撃ち破っている。何が決め手かといえば、鉄砲の導入だ。それを日本にもたらしたのは誰か?ポルトガル人である。
このころヨーロッパ諸国では大航海時代が始まり、地球が丸いのか、それとも平らで一番端までいったら地獄に転落するのか、どちらが正しいのか争っている時代だった。
当時、オスマン帝国というイスラム教国が、世界最強を誇っていた中、ヨーロッパ全体でイスラムに対する反抗心や搾取逃れの機運もあり、オスマンを回避する交易ルートへの需要の高まりがあった。
このような情勢で当初勢いがあったのは、先駆者のポルトガル海上帝国、遅れてのスペイン帝国、さらに遅れてのオランダ海上帝国だった。
ポルトガルは日本にヨーロッパ文明をもたらし、スペインは日本を支配しようとし、オランダは鎖国する日本の唯一のヨーロッパ交易国となったが、世界情勢でも似たようなことが起きている。
ポルトガルが最初に開発しようとした土地をスペインが略奪し、スペインの暴走をオランダが鎮圧する、という構図だ。
こういう状況では、オランダも海外拠点を確保することに躍起になるので、当然日本との交易だけでなく、地理的に台湾を貿易の拠点とすることを考える。
オランダの東インド会社は、1624年に台湾を占領した。ところが、暴れん坊であるスペインも1626年に台湾の一部を占領し、オランダとスペインが対立。結局、1642年にオランダはスペインを追い出すことに成功した。
オランダの台湾統治時代、台湾でプランテーション経営に乗り出すが、労働力は中国大陸の南部から募集をかけていた。
ちなみに台湾の原住民は、オランダ人のことを、「Tayouan」という、来訪者という意味合いの言葉で呼んでいた。これが、後の「台湾」の語源となっている。
漢民族がオランダ領を奪う!
やがて中国大陸では満州族が勢力を伸ばし、明朝から清朝にとってかわる。満州族に対抗するために台湾へ亡命した明の残存勢力は、オランダ東インド会社の領域を根こそぎ強奪しようとし、成功する。1662年のことだ。
しかし結局清朝に征服され、そこで初めて台湾は中国大陸の版図に加えられた。この頃から漢民族の血統が人口の大半を占める事態が続いているが、近年は台湾原住民系が持ち直してきている。
日本領時代から蒋介石時代まで
日清戦争後に台湾が日本に編入され、漢民族シンパを粛清し、大日本帝国内でもナンバー2の経済成長を誇り、インフラ等が発展した。
ところが、蒋介石統治時代になると女性への強制性行為や強奪など、治安が悪化。2・28事件を皮切りに、台湾人は日本の君が代を歌いながら、蒋介石と対立するようになった。
漢民族への不満が爆発した時期だが、もう一つの漢民族暴走勢力である毛沢東一派(中国共産党)に対する防波堤という側面から、結局は蒋介石の支配下に置かれた。
台湾は台湾人のもの
結局台湾は、中国大陸の蛮行に拒絶反応を起こしており、本来は台湾は台湾のものでなければならない。また、無主地は最初に支配したものの領土になる国際法上の「先占の法理」という観点からしても、先占者はオランダだ。
台湾は中国のものではない。「一つの中国」というフレーズに、歴史的な正当性も、法的な根拠も全くない。そろそろ国際社会は、中国の台湾に対する領土的野心を諦めさせるべきではないだろうか?
糸谷坂源鷹(いとやざか・もとたか)/コンビニ業界関係者。小池百合子都知事の政治塾に通った経験もあり、政治や経済について提言を行なっている。小池百合子都知事に対しては現在は批判的。