政府は令和5年2月15日に開催された第14回新しい資本主義実現会議の中で、「自己都合で離職する場合と会社都合で離職する場合の保護の差をどのようにするか」との論点を掲げ、自己都合退職者の失業給付開始期間を早めることを検討している。
背景には「労働移動に挑戦できる環境作り」という課題がある。令和3年12月に経産省がまとめた資料によれば、主要先進国の中で日本は労働市場の流動性が極めて低く、そのことが労働生産性を押し下げている。
一方で、「現在の勤務先で働き続けたい者の割合」がアジア諸国で最も低いとする調査結果もある。現実問題として、日本では転職によって賃金が上がるケースが比較的少ないことも、労働市場の流動性を下げる要因といえる。
しかし今後、ロボットやAIによって自動化が進めば日本の労働人口の49%がこれらに代替され、脱炭素化によっても化石燃料産業を中心に雇用が失われると予測されている。雇用の流動性を高めることは日本経済における重要な課題であり、家計にとっても喫緊の課題である。
そのような中、政府が自己都合退職者の失業給付開始期間を前倒しする方針を示したことは前向きに捉えるべきだろう。ぜひ「検討」に終わることなく、早期に実現して欲しい。
新しい資本主義実現会議に出席した連合の芳野友子会長は「自己都合離職者に適用される給付制限期間については、(現状のように)長い期間設定とすると、無収入状態を脱するために(再)就職を急いだ結果としてミスマッチが発生する懸念」があるとの意見書を提出している。
実態として、雇用者側には「会社都合退職」を認めたがらないインセンティブがある。このため、事実上の解雇であっても「自己都合退職」扱いになり、労働者側は不利な立場に追いやられるケースが多い。
現状でも「正当な理由」(病気や家庭事情などによるやむを得ない退職理由)があれば、自己都合退職者でも2ヶ月間待つことなく失業給付を受けることができる「特定理由離職者」という制度があるが、一定の手続きが必要で煩雑だ。
自己都合退職者の失業給付開始期間を会社都合退職者並みに前倒ししたとしても、直ちに労働市場の流動性が高まるとは思えないが、ブラック企業で苦しむ労働者を救う一助になることは間違い無いだろう。
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