『鬼滅の刃』は銃刀法違反で公開禁止すべきか?

今から5年ほど前の2016年4月、あるCM(コマーシャル)が物議を醸した。当時放映されていたファンションブランド「GU(ジーユー)」のテレビCMだ。

内容はシンガーソングライターの故・尾崎豊(享年27歳)のヒット曲、『15の夜』を口ずさみながら3人の女優がキックスケーターで滑走しているというものだ。

このCMが放送されたことを受けて、「子供たちの“犯罪の助長”に繋がるのではないか」という意見がBPO(放送倫理・番組向上機構)に寄せられた。確かに『15の夜』には「バイクを盗む」という内容の歌詞が用いられている。

▽(参考)尾崎豊「盗んだバイクで走りだす♪」 CM使用が「犯罪助長」とBPOに意見が
www.j-cast.com

ちなみに補足すると、例えば尾崎の代表曲『卒業』の中にも、「窓ガラスを壊す」という内容の歌詞が用いられている。『15の夜』も『卒業』も往年の名曲というべき素晴らしい楽曲だが、彼の楽曲に用いられる過激な歌詞は、先述のように度々物議を醸す。

だが冷静に考えてみて、本当にこれらの楽曲は糾弾されるべきものなのだろうか?

まず「バイクを盗む」ことにしろ、「窓ガラスを壊す」ことにしろ、犯罪行為であることは事実だ。前者は窃盗罪で後者は器物損壊罪である。そこに間違いはない。しかしそれが本当に実際の犯罪を助長するのだろうか?

まして楽曲をCMで使用することを差し控えるべき理由になるのだろうか?

言うまでもなく、「歌詞の中で犯罪行為を描写すること」と「実際に犯罪行為を行うこと」とでは天と地ほどの差がある。例えば尾崎の楽曲をCMで流したり、あるいはカラオケなどで歌ったりすることと、実際の窃盗・器物破損とは本質的には何の関係もない。

むしろ実際にはやってはいけないことを楽曲というフィクションに落とし込んで聴いたり歌ったりするからこそ、ガス抜きになり、実際の犯罪の抑制に繋がるのではないだろうか。

あるいは逆説的に、窃盗や器物破損が良くないことだと改めて学ぶことに繋がるのではないだろうか。

犯罪描写がNGなら、あの作品も…

もしフィクションを「現実に当てはめれば犯罪だから」という理由で糾弾していけば、突き詰めれば「海賊行為は犯罪だから『ONE-PIECE』のアニメは流すな」ということになりかねない。

他にも「海賊行為は犯罪だから『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの映画は流すな」ということになるし、「窃盗は犯罪だから『ルパン三世』のアニメや『オーシャンズ11』シリーズの映画は流すな」ということになる。

当然銃で人を撃つことは犯罪だから、「『ゴルゴ13』や『シティーハンター』のアニメは流すな」ということになってしまう。そして社会現象になった『鬼滅の刃』もまた、「刀を認可なく持って回るのは銃刀法違反だから」という理由で放送禁止だ。

この様に「○○は犯罪だから」、「○○は法律違反だから」という批判を受けて(過剰に)応えていけば、愛すべき多くのフィクション作品がどんどん隅に追いやられていく。

繰り返しになるが、「フィクションの中で犯罪行為を描写すること」と「実際に犯罪行為を行うこと」とでは天と地ほどの差がある。

むしろフィクションの中で虚実を交えて犯罪行為を描写するからこそ、実際の犯罪行為への戒めや反省、あるいは対策に繋がるという見方もできるはずだ。

最後に、他のフィクションから楽曲に立ち返ってみよう。

日本の伝統歌謡として確固たる地位を確立している演歌。その演歌の歌詞を聴いてみると、「この恋が叶わぬなら身を投げてしまいたい」だの、「殺めたいほど愛した」だの、「愛することがこんなに辛いなら、いっそあなたを殺して自分も死んでしまいたい」だの、物騒な歌詞がふんだんに使用されているではないか。

自殺・他殺・無理心中のオンパレードである。

こうした演歌が「渋い」、「素晴らしい」、「日本の心を歌っている」と評価されてきたわが国において、たかが「バイクを盗む」、「窓ガラスを壊す」程度のことで尾崎豊の楽曲を「子供たちの“犯罪の助長”に繋がるのではないか」と否定するなど、まったくナンセンスな話ではないだろうか。

矢野哲郎(やの・てつろう)/平成3年、福岡県行橋市に生まれる。下関市立大学経済学部卒。大学卒業後は塾講師の仕事を行い、国語・数学・英語などの科目を担当。放課後などの時間帯を利用して学習指導を行う「子どもひまわり学習塾」の指導員として4校の小学校を担当。NGOピースボートが主催する地球一周クルーズに参加し、人種差別に関する企画やブラインドサッカーなど多様な自主企画を実施。

『僕がぼくであるために ピースボートで大東亜戦争のことを考えた』
出版社:花乱社 (2018/6/28)
内容紹介:
自分のスタイルを確立せよ!
色んなことを語ろう,学ぼう,世界を旅しよう。
ブラインドサッカー,尾崎豊・裕哉父子,ピースボートで出会った仲間たち,そして世界で初めて人種差別撤廃を訴えた祖国・日本から僕が学んだ人生のヒントとは?


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