7月前半は、福岡市内中心部の14箇所に10メートルもある巨大な「飾り山」が設置される。これは「博多祇園山笠」の祭りの一環で、毎年新たに博多人形師が制作している。
人形装飾のテーマは「流れ」と呼ばれる町単位で異なり、時宜にかなったものが選ばれることが多い。ちなみに、JR博多駅前の今年の飾り山はNHK大河ドラマの『西郷どん』がテーマになっている。

博多駅前の巨大な飾り山。

躍動感あふれる「西郷どん」。
博多の山笠には「舁(か)き山」と「飾り山」の2種類があり、「舁き山」の勇壮さはことに有名だ。しかし昔は、この両者は同じだった、と言えば驚かれるだろうか。実は、昔の博多っ子は10メートルもある山笠を「舁いて(=かついで)」いたのだ。
しかし明治以降、街中に電線が架けられるようになり、山笠が電線を切る事故が多発したことから小型化し、別途「飾り山」が置かれるようになったというわけだ。(祭り自体が危うく廃止に追い込まれるところだった)
ちなみに明治初期には、最大16メートルもの「舁き山」が登場していたというから驚きだ。
「舁き山」と言えば、博多祇園山笠の最終日、7月15日の「追い山」で7つの「流れ」が全力疾走してゴールまでのタイムを競い合う。
これこそが博多祇園山笠の勇壮さを体現するものだが、この競争が始まったのが1687年。なんと、5代将軍徳川綱吉によって生類憐れみの令が出された年だ。
近年、福岡市の中心部でも電線の地下埋設化が進んでいる。ひょっとしたら、再び10メートルの巨大「舁き山」が博多の町を全力疾走する日も近い、かも知れない。

『博多の恩人・聖一国師と博多祇園山笠』(集広舎)より
今年出版され、山笠関係者にも大好評を博している『博多の恩人・聖一国師と博多祇園山笠』(集広舎)を読むと、博多祇園山笠の由来や、祭りを支えている博多っ子の舞台裏がよくわかる。この本を読んで、7月15日早朝の「追い山」をご覧になってはいかがだろうか。