中国政府に殺された民主化の英雄・劉暁波が語った「日本の桜」とは

2017年7月に中国で獄死した劉暁波という人権活動家の事績は、日本人にはあまり馴染みがない。

1989年の天安門事件において民主化を求める学生たちと行動を共にし、たびたび中国民主化を訴える主張を繰り返す中で2010年にノーベル平和賞を受賞したことが知られるくらいだ。

日中はお互いに、米国に並ぶ最大規模の貿易相手国である。2015年時点で日中貿易総額2,699億ドルであるのに対し、日米貿易総額は1,924億ドルだ。(貿易総額は輸出入の合算・外務省資料)

経済的結びつきは強いものの、中国の国家体制は日本と全く異なる。中国には自由と人権が無く、民主主義がない。言論の自由、基本的人権の保障、民主主義の制度は、現在の日本人にとっては水や空気のように「あって当たり前」のものだが、中国をみればそうではないことがわかる。

学者でもある劉暁波が中国共産党政権により投獄された罪状は「反革命罪(1989年)」「国家政権転覆扇動罪(2010年)」などである。

反革命罪とは、ソ連で権力を握ったスターリンが政敵を粛清するために創設した罪状で、明確な定義がない、共産主義国で恣意的に運用されてきたものだ。中国では1997年に「国家安全危害罪」に改称されているが、本質的には変わっていない。

「国家政権転覆扇動罪」は文字通りクーデターを企てたとされるものだが、そのきっかけは2008年に劉暁波など(中国の知識人ら303人の連名)がインターネット上に発表した「零八憲章」と呼ばれる声明文だった。

以下に、「零八憲章」の一部を引用する。

長きに亘る人権災害と艱難曲折の抗争を経て、覚醒した中国公民は自由・平等・人権が人類共通の普遍的価値であり、民主・共和・憲政が現代政治の基本的制度構築であることを日増しにはっきりと認識するようになった。(中略)21世紀の中国はどこに向かうのか。今のような権威主義的な統治の下での”現代化”を継続するのか。それとも普遍的な価値を認め、主流文明に融け込み、民主的な政体を打ち立てるのか。これは回避し難い選択である。(零八憲章・前文)

「零八憲章」で劉暁波ら人権活動家は、中国共産党の一党独裁の終結、三権分立、民主化推進、人権状況の改善などを具体的に列挙し、求めている。

「国家政権転覆扇動罪」とはおどろおどろしい罪状だが、劉暁波は実際にクーデターを画策したのでは無く、言論によって訴えただけだ。インターネットに書き込んだ文章によって投獄され、獄死に追い込まれるのが中国という国なのだ。

劉暁波は学者として米国に暮らした時期もあった。しかし敢えて帰国し、中国国内で民主化を訴え続けた。1991年には一度釈放されており、亡命によって身の安全を図ることも可能だったが、そうしなかった。

さて、そんな劉暁波は、日本に対しても強い関心を抱いていた。劉暁波が書いた「中国における桜の受難」という文章がある。熱狂的な「反日ブーム」の中で、中国・武漢大学に植えられた桜の花見を「国辱」とする風潮を批判したものだ。

「過激な(中国の)民族主義者は桜と花見をする(中国)国民を罵倒するが、それはもう洗脳による知識の欠如かと思うほど悲しいことだ。(中略)今日の中国の民族主義はもう何かに取り憑かれてしまっていることがよく分かる。取り憑かれたものは如何なるものでも、極めて破滅的な結末を迎えるだろう。」

「初期の大連市は日本人が建設した。(中略)もし日本人が残した桜が国辱であるとすれば、日本人が残した近代的東北はもっと国辱ということになるのではないだろうか?」

さらに、「熱狂から機転のきく愛国主義者への転身」という文章から引用する。

「21世紀の世界で、中国の愛国主義者たちがいかに日本を越え圧倒したいと思っても(中略)他の国にNOを突きつける資格など全くない。また、日本の民主主義への転換の経験に学ばず、日本の女体盛りしか持ち込めない国家は(中略)法治国家を超越することなど一層困難である。」

文筆家でもあった劉暁波は、膨大な文章を遺しており、随所に日本に関する言及も見られる。同じ東洋の国であり、民主化を達成できた日本に学ぶべきだと考えたのだろう。

日本から中国へ多くの企業が進出し、中国から日本へ多くの観光客がやって来ている。日本人がよく理解しておかねばならないことは、中国はいまでも前近代的な、法治主義の通じない専制国家だということだ。

そして同時に、中国には劉暁波のような勇気ある活動家が今も多数存在し、命がけで国を変えようとしている。劉暁波の事績を通じて中国を知り、われわれもまた自国のあり方を振り返るべきではないだろうか。

『劉暁波伝』(集広舎刊)
余傑 (著), 劉燕子 (編集, 翻訳), 横澤泰夫 (翻訳)
度重なる拘束や監視にもかかわらず中国にとどまり続け、民主化を訴えた劉暁波とはどのような人間だったのか?! 最後まで彼と行動を共にした若手知識人作家による劉暁波の人生録。

本山貴春(もとやま・たかはる)/昭和57年生まれ。独立社PR,LLC代表。戦略PRプランナー。『選報日本』編集主幹。北朝鮮に拉致された日本人を救出する福岡の会副代表。福岡市議選で日本初のネット選挙を敢行して話題になる。大手CATV、NPO、ITベンチャーなどを経て起業。

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